コロナ禍で世界が遠くなったように感じる昨今。
こんなときこそ外国の人々の暮らしに思いをはせ、身近に感じてみてはいかがでしょうか。
訪れた国や地域90以上、海外への旅は213回という旅行作家の秋山秀一さんにお話を聞きました。
世界の国々と人々の
暮らしに魅せられて
暮らしに魅せられて
鎌ケ谷のご自宅に秋山さんを訪ねました。
世界各国の旅で撮影した写真や記念の品々、書籍や映画のDVDであふれんばかりの室内は、さながら博物館のよう。
それぞれにまつわる思い出を気さくに話してくれる秋山さん、次から次へと湧き出る話の泉は尽きることがありません。
海外への興味の芽生えは小学生時代。
学校近くの公立図書館で、世界の国々を紹介した写真入りの本に心躍らせ、夢中でページをめくりました。
▲ペルーの世界遺産、マチュピチュ遺跡
▲一年で一番美しいノエル(クリスマス)のパリ。
シャンゼリゼのイルミネーション
▲カンボジア。アンコール・トムの中心、
バイヨンの観世音菩薩像
卒業文集に書いた将来の夢は既に「海外に行くこと」。
当時は今のように海外旅行が一般的でなかった時代ですが、25歳で初めての海外行きを実現して以来、毎年世界のあちこちに出掛けては旅の思い出をエッセーにしたため、発表してきました。
40回以上も訪ねているロンドンをはじめ、何度も繰り返し訪れる場所も多く、そのたびに街の変化を目の当たりにします。
何度行っても新しい発見があるのが旅の魅力なのです。
▲ナショナルギャラリーで好きな絵を観るために
何度もロンドンへ
▲「オペラ座の怪人」を見るために何度も足を運んだ
ハーマジェスティ劇場(ロンドン)
コツコツ歩いて蓄えた
旅の体験が財産
旅の体験が財産
秋山さんの旅の基本は「まち歩き」。
自分の足で実際に現地を歩き、自ら撮影することを大事にしてきました。
一見当たり前の事のようですが、現在は借り物の情報や写真でもそれなりの旅行本が作れる時代。
ただ、秋山さんから見れば「本当に歩いて書いているかどうかは、読めばすぐに分かる」のだそう。
「旅に行って書いておしまいではなく、10年後、20年後にも残るものを」との思いで書いているエッセーは、自分で見たもの、感じたもの、シャッターを切った写真にこだわっています。
▲世界三大瀑布の一つ、イグアスの滝。
悪魔ののどぶえ(アルゼンチン)。撮影していると…
▲カメラに蝶々が止まってそのまま動かず…
しばらく一緒に行動したそうです
▲せっかくなので他の世界三大瀑布も。
これはナイアガラの滝(スカイロン・タワーから眺めるカナダ滝)
▲そしてこれがビクトリアの滝。
ヘリコプターに乗り下流側から眺めたところ
そんな秋山さんですが、今年2月のトルコ旅行以来、海外に行けていません。
もちろん新型コロナウイルス感染症流行のためです。
今年予定していたイスラエル・ヨルダン、中国・杭州、カナダ、パラオ、北欧、ニュージーランド、スイスなどの旅は全てキャンセル。
「幸いまだ原稿にしていないストックがたくさんあるので、現在はそれらを整理しながらじっと我慢の日々」を過ごしているそうです。
▲今年は大好きなロンドンにも行けていません
旅に行けること自体が
尊く素晴らしい
尊く素晴らしい
3年前からYouTubeで「旅行作家秋山秀一の世界旅」を配信しています。
思いがけず「取材の様子をそのまま動画に撮影しよう」と提案されたので、その流れでいろいろ質問させていただきました。
(取材の様子を収めた動画はこちら)
―好きな国ベスト3はどこですか?
秋山(以下秋):…どの国もそれぞれ良い所があるんですよね。
三つに絞るのは難しいなあ。
ロンドンは好きですね。
ぶらぶらっと歩いてパブに行ったり、「オペラ座の怪人」などミュージカルも見たい…。
香港周辺の島もいいな。
パリはパリの良さがあるしアイルランドもいいし…。
あ、ポルトガルも好きですね。
次々出てきて困ったもんだ(笑)。
▲香港、ラマ島。自然と食が魅力。
ソックー湾の眺め
▲ポルトガル。坂の町リスボンを100年以上も走り続けるケーブルカー、グロリア線
▲満開の桜とエッフェル塔(パリ)
―では食べ物はいかがでしょう?
秋:臭いなんて言われているドリアンですが、マレーシアの山奥で採りたてをパカッと割って食べると、クリーミーで本当においしい!
イギリスの料理はまずいなんてよく言われるけれど、パブ「シャーロック・ホームズ」の2階のサーロインステーキは絶品ですよ。
軟らかくておいしいのに20ポンドしないんですよ。
パリにもおいしいものがある。
だから…それぞれだね(笑)。
▲パリで食べるサーモンは大変美味
▲アイスランドの伝統的なバイキング料理
―逆にこれはダメだ…というものは?
秋:だいたいどんなものでも食べられるんです。
ただ、びっくりしたのはパリでの食後のお茶かな。
僕らは食事の後、口をスッキリさせたくてお茶を飲むイメージだけど、パリでは料理には砂糖を使わない代わりに、最後に出てくるお茶は緑茶でも烏龍茶でも砂糖が入っている。
文字通り食後のスイーツなんだ。
それには驚いたね。
―事前に抱いていたイメージと最もギャップがあって驚いた国は?
秋:あんまり事前に調べて行かないんです。
比較的柔軟性が強いのか、見たもの聞いたもの食べたもの、そのまま「こういうものなんだ」と受け入れて楽しめるので。
―自分ばかりでなく、関わった周りの人も幸運になる「グッドラック秀ちゃん」だそうですが、それを実感するエピソードがあったら教えてください。
秋:古希を迎えても好きな旅をしてエッセーを書かせていただく、それ自体がグッドラック。
本当にありがたいことだと思っています。
▲アイスランドで見たオーロラ
―できなくなってあらためて気付いた旅の素晴らしい所は?
秋:今回のコロナだったり、紛争があったりすると旅に行くことができない。
そう考えると「旅ができる」ということ自体がどんなに素晴らしいことなのか、実感します。
普通に動けるというのは本当に素晴らしいことなんだと。
また絶対行ける状況になるはずだから、今はその時に備えてじっくり準備をしたいと思います。
▲カンボジア、アンコールワット。
朝焼けの中、日の出を待つ
―秋山さんにとって旅とは何ですか?
秋:旅は僕の学校。
子どもの頃から人の集まる所に行ったり、新しいモノ・事を体験してみることが好きだった。
なんでも自分で見て確かめたかった。
「自分の知らない所にいろいろな人生がある」と教えてくれたのも旅。
いつも歩きながら考え、学んできました。
だから旅は学校なんです。
動画撮影終了後、今後の抱負を伺うと、「大好きな映画をテーマに、旅先の写真を絡めた癒やしのエッセーを書きたい」という構想をを明かしてくれました。
「旅と映画と本こそわが人生」と語るグッドラック秀ちゃんの旅は、まだまだ続きます。(R)
▲8月に出た新刊『世界観光事情 まち歩きの楽しみ』(新典社)では35カ所の旅を収録