子ども向けの習い事にはさまざまな種類があります。どんな基準で選ぶかは各家庭で違いますが、子どもの能力を伸ばしたい、将来何かの役に立ってほしいと考える親は多いのではないでしょうか。

「ワーキングメモリー」とは、「作業記憶」とも訳される情報処理能力です。この記事では、子どものワーキングメモリーを習い事で強化することについて解説します。習い事によって子どもの脳にいい影響を与えたいと思っている方は、ぜひ参考にしてください。

公開 2023/12/23(最終更新 2023/12/27)

編集部

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千葉・埼玉県在住の編集メンバーが、地域に密着して取材・執筆・編集しています。明日が楽しくなる“千葉・埼玉情報”をお届けします!!

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ワーキングメモリーとは?

ワーキングメモリー

ワーキングメモリーとは「作業遂行に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力」です。情報を一時的に記憶するだけはなく、記憶を保持している間に他の情報処理も行います。ワーキングメモリーにより、数秒~数十秒の短時間、短期記憶として保持することが可能です。ワーキングメモリーは日常的に使われている能力で、会話や読書、計算、家事など多くの場面で発揮されています。

・話を聞きながら不要な情報を忘れ、必要な情報だけを記憶しながら話を進める

・電話番号やパスワードを短時間だけ記憶し、メモや入力が終わるまで忘れないようにする

・計算に必要な数字を記憶して暗算する

ワーキングメモリーは容量に限界があり、人が短時間で記憶できる量は7つ前後(7±2)と言われてきました。これは1956年の論文に出てくる数字であり、現在では7ではなく4つ程度だろうと言われています。ワーキングメモリーは知能テストの結果とはあまり関係はありません。ただし、ADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)の特性とワーキングメモリーの弱さの関連性が指摘されているほか、ワーキングメモリーが加齢によって衰えることが分かっています。

短期記憶との違い

一時的な記憶と聞くと、短期記憶と同じではないかと感じる方も多いのではないでしょうか。ワーキングメモリーは短期記憶に関連した記憶ではありますが、両者は同一ではありません。短期記憶との違いは、短期記憶が単純な短時間の暗記であるのに対し、ワーキングメモリーは何か作業のための記憶である点です。

ワーキングメモリーの容量が多いメリット

ワーキングメモリーの容量が多いと、仕事や家事などをよりスムーズに行うことができます。正常に短期記憶が機能することで、確認や理解に無駄な時間をかけることなく作業を行えるでしょう。マルチタスクを効率よく進めたり、複数ある作業に適切に優先順位をつけたりすることができるため、多くの作業を効率的にこなせます。

ワーキングメモリーの容量が多いことによるメリットは、以下の通りです。

・複数の指示を理解できる

・忘れ物が少ない

・集中して授業を受けられる

・読み書きや計算が得意

・思考をスムーズに切り替えられる

ワーキングメモリーの容量が少ないと起こる問題

逆にワーキングメモリーの容量が少ないと、以下のような問題が起こりやすくなります。

・よく忘れ物をする

・目の前のことに集中できない

・活動や行動、感情の切り替えができない

・文章の内容を理解できない

・誤字脱字が多い

・黒板の書き写しが苦手

・繰り上がりや繰り下がりのある計算ができない

 

これらの特徴が学校生活で出てしまうと、周囲についていけなかったり勉強に影響が出たりします。具体的な例は、以下の通りです。

・授業が終わっても、次の授業の内容に気持ちを切り替えられない

・ネガティブな感情を長く引きずってしまう

・先生の話を集中して聞けない

・テストで減点が多くなる

上記のような問題が起こってしまうと、本人の自己肯定感もどんどん下がってしまうでしょう。ワーキングメモリーが低い子どもに対しては、保護者や先生など周りの大人が声を掛ける、一緒に確認作業をするなどのフォローが有効です。

ワーキングメモリーを鍛えることはできる?

「ワーキングメモリーの鍛えることができるのか」については諸説ありますが、ワーキングメモリーをトレーニングで鍛えることはできないという研究結果も出ています。さまざまな研究でワーキングメモリーが鍛えられるか実験されていますが、結果はまちまちなのが実情です。現時点ではワーキングメモリーを鍛えられると断言はできません。

ワーキングメモリーについてはまだ分からないことも多く、研究が進められています。また、トレーニングが全くの無意味というわけではありません。長期的に行うことで各能力を高めたり、適切な支援や介助をしたりすることによって知能全般の向上が期待できると考えられています。

子どものワーキングメモリーを鍛える習い事は?

前述の通り、ワーキングメモリーを鍛える方法はまだ確立されておらず、「この習い事に通わせれば必ずワーキングメモリーの向上が見込める」と断言できる習い事はありません。しかし、脳の発達に良い影響があるとされる習い事はあります。子どもの脳を鍛えるのにおすすめの習い事の例は、以下の通りです。

・ピアノ教室

・そろばん教室

・プログラミング教室

・幼児教室

ピアノ教室

ピアノ教室

ピアノは、脳の発達に良い影響があると言われる習い事の代表格です。ピアノの演奏では、左右の手で別々の動きをしなければなりません。両手を同時に、しかも異なる動きで使うことは脳に刺激を与えます。さらに、演奏する曲のレベルが上がるとペダルも使用するため、右手、左手でバラバラに複雑な動きをしながら、足も異なるタイミングで動かすことで脳をより活性化することが可能です。

また、楽譜を読む力も養われます。譜面は、これから弾く部分を意識しながら読んでいかなければなりません。そのため、先読みする能力も養われます。

ピアノの演奏に必要な動作は脳の前頭前野の発達を促すでしょう。ピアノの練習によってHQ(人間性知能)が上がるという研究結果も出ています。ピアノに限りませんが、楽器の練習をした子どもは集中力に関する脳の部位が発達していることも研究により判明しました。

そろばん教室

そろばん教室に通う子ども

そろばんは、数字の情報を聞きながら手を素早く正確に動かし、計算結果を導き出す能力が求められます。そろばんは暗算力だけでなく、集中力や記憶力、処理能力、判断力、発想力など多くの力を鍛えることができる習い事です。そろばんによる右脳への効果も研究されており、ひらめきなどに繋がる能力を養うことができます。

プログラミング教室

プログラミング教室で学ぶ子どもと先生

プログラミング教室では、プログラミング的思考や課題解決能力を鍛えることが可能です。プログラミングが小学校で必修化されたこともあり、現在では幼児向けのプログラミング教室も少なくありません。プログラミングと言うとパソコンを使ってソフトを作るようなイメージがありますが、小さな子ども向けのプログラミングは、ブロックやパズルなど楽しく遊びながら学ぶことが可能です。

幼児教室

幼児教室の先生と子ども

幼児教室の中には、ワーキングメモリーの強化を意識したプログラムを組んでいるクラスもあります。複数の課題を並行して解決する練習をしたり、計算や読み書きをしたりするための基礎になる力を身につけられるでしょう。

子どもの習い事の選び方

子どもの習い事を選ぶ際のポイントは、以下の通りです。

・子どもの興味・関心を優先する

・教室と子どもの相性を重視する

・実際に見学して決める

子どもの興味・関心を優先する

親としてはあれこれと習い事を勧めたくなってしまいがちですが、一番大切なのは子ども自身のやる気です。本人にその気がないと積極的に取り組むことができず、ただ苦痛なだけの時間になってしまいかねません。また、習い事によっては家庭での練習や復習が必要です。やりたがらない子どもに家で練習や勉強をさせることは、簡単なことではありません。本人がやりたがっているかどうかを尊重してあげてください。

教室と子どもの相性を重視する

授業のスタイルやクラスの雰囲気、先生の指導法や方針などが子どもと合っているかどうかも非常に大切です。どんな目的で通わせたいのか、その目的と教室の考え方は一致しているのかいま一度確認してください。例えば、楽しく習わせたいのに、試験やコンクールでの好成績を目指すストイックな教室であれば子どもにとって通うのがつらくなってしまうでしょう。子どもが馴染めそうかどうかを基準にチェックすることをおすすめします。

実際に見学して決める

ホームページやSNSなどで情報収集ができる時代ですが、実際の空気感や人柄は直接行ってみないとわかりません。どんなにネット上でのクチコミが高評価でも、自分や我が子との相性が良いとは限らないでしょう。教室の方針や先生の経歴などの情報も重要ですが、直に会って感じた印象や感覚を大切にしてください。

子どもの習い事を選ぶ際の注意点

子どもの習い事を選ぶ上で注意したいポイントは、以下の通りです。

・一度にたくさん習い事を始めない

・無理なく続けられるか確認する

・すぐに結果を求めない

一度にたくさんの習い事を始めない

子どものさまざまな可能性を伸ばそうとすると、複数の習い事を一気に始めがちです。ですが、急に新しい習い事が増えると、精神的に大きなストレスがかかります。これは子どもだけでなく、親の立場でも共通することです。新しいコミュニティへの参加で新たな人付き合いが発生しますし、送迎や時間的な拘束、初期費用などの負担も家計にとってのダメージになりかねません。1つの習い事にある程度慣れてきて、余裕が出てきたら次の習い事を始めるようステップを踏むことが大切です。

無理なく続けられるか確認する

習い事によっては、通いやすい範囲に教室がないかもしれません。距離が離れたところに通うことは、それだけ心身ともに負担がかかってしまいます。また、レッスンや授業の時間帯も重要です。時間を選べなかったり、希望と異なる時間帯しか空いていなかったりすると生活にも影響が出てしまいかねません。

さらに、習い事には継続的に費用がかかります。家計の状況を鑑み、無理なく続けられる範囲で習い事を検討してください。

すぐに結果を求めない

すぐに能力の向上や改善が見られなくても、焦らず気長に見守る気持ちが大切です。習い事で期待できる効果は、即効性があるものばかりではありません。子どもが楽しんで通えているのであれば、効果がないと切り上げずに続けさせてみると良いでしょう。

日常生活でできるワーキングメモリーを鍛えるトレーニング

日常生活や遊びの中でも、脳の発達を促すトレーニングは可能です。

・絵本の読み聞かせ

・外遊び

・ゲームやクイズ

絵本の読み聞かせ

絵本の読み聞かせは自宅でもでき、手軽で簡単に脳を鍛えられる方法です。読み聞かせで耳に入ってくる情報から場面や情景をイメージします。話に合わせて次々と想像の場面を切り替えていく作業はワーキングメモリーを活用する良い練習になるでしょう。

外遊び

外で遊ぶことで視覚や聴覚、触覚などたくさんの感覚を使い、脳に刺激を与えることが可能です。毎日同じ公園に通っていたとしても、天気や気温は刻々と変わり、咲いている花の種類や木々の様子も季節ごとに変化があります。得られる情報が非常に多いので、子どもの脳を鍛えるのにおすすめです。

ゲームやクイズ

家で簡単に脳のトレーニングができるゲームやクイズをご紹介します。

・後出しじゃんけん

・逆さ言葉クイズ

・かるた

・神経衰弱

後出しじゃんけん

後出しじゃんけんは、相手がじゃんけんで出したタイミングより遅れて、わざと勝ったり負けたりする遊びです。相手の手を見ながら「何を出せば勝てるか・負けるか」を判断し、自分の手を出すという一連の動作が脳を鍛えます。できるだけ早く出せるようにするとより効果的です。

逆さ言葉クイズ

逆さ言葉クイズは、逆から読んだ単語を聞いて、元の単語に戻す遊びです。聞いた言葉を覚え、文字列を思い浮かべながら逆から読むという作業は短期記憶を鍛えます。短い言葉から始めて、徐々に文章にして難易度を上げていきましょう。

かるた

読み上げられた札に対応する絵札を探して取る遊びです。始めの文字を記憶しながら文章を理解し、内容の合致する札をできるだけ早く探します。短期記憶や並行した作業を処理する能力が求められるゲームです。

神経衰弱

裏返しに並べたトランプをめくり、同じ数字のカードを揃えていくゲームです。これも、記憶力が試される遊びですが、ルール自体はそんなに難しくありません。工夫すれば1、2歳の子でも遊ぶことができるでしょう。その場合はトランプではなく、簡単な図形やイラストなど興味を持ちやすい絵柄にするとうまくいきやすいです。

【まとめ】ワーキングメモリーの重要性

ワーキングメモリーの容量が多いと、作業効率が上がったり場面の切り替えがスムーズに行えたりします。習い事によって必ずしもワーキングメモリーが伸ばせるとは限りませんが、脳への良い刺激を期待できるでしょう。習い事だけでなく、日常でできる遊びでも能力を鍛えることは可能です。子どもの興味に合わせた方法で、焦らず見守りながらワーキングメモリーを引き出してみてはいかがでしょうか。