旧井上家住宅 日本のめでたきこと

2月23日(金・祝)に我孫子市の文化振興×春の開運をテーマとしたイベント「日本のめでたきこと」が開催されます。会場は我孫子市の東側、布佐地域にある旧井上家住宅で、市の西側にある杉村楚人冠記念館とのコラボ開催。

市内在住の日本舞踊家・若月仙之助さんによる「三番叟(さんばそう)」の披露をはじめ、和装開運講座、開運飾り作り、杉村楚人冠にまつわるトークなど多彩な内容で、旧井上家住宅の隣ではマルシェ「オーガニックピクニック」も開催されます。主催の教育委員会 文化・スポーツ課 歴史文化財係長 今野澄玲さんや各出展者に、活動の背景にある思いや、イベントへの意気込みなどを伺いました。

公開 2024/01/31(最終更新 2024/02/01)

野中真規子

野中真規子

フリーライター歴20年。取手市出身。2021春に東京から我孫子市に移住し、手賀沼周辺の水辺や豊かな緑、遺跡、史跡、ユニークな個人商店などに囲まれた生活を満喫中。スパイスと魚影、日本語ROCK、RAP、民族的デザイン、音楽、祭り好き。https://makikononaka.com/

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東西に長い我孫子市で、各地の文化財を一緒に盛り上げていくために

我孫子市教育委員会では、日頃から伝統文化にちなんだワークショップや、子ども向けの伝統遊び体験などを行い、市民が市の歴史や伝統に親しむ場を作っています。今回のイベント開催の背景について、教育委員会 文化・スポーツ課 歴史文化財係長 今野澄玲さんに伺いました。

旧井上家住宅 日本のめでたきこと

「東西に長い地形の我孫子市において、市内全体の歴史文化財を盛り上げていくため、これまでも東側と西側の施設によるコラボイベントも数々開催してきました。今回のイベント開催のきっかけは手賀沼周辺で活動する市民団体『豊かな湖沼を守る会』の方々との会話でした。彼らが手賀沼の植物で作るお飾りが、旧井上家の雰囲気にぴったり。杉村楚人冠記念館の庭になるツバキの実もモチーフにあしらっての手仕事ワークショップを開催することで、市内の東西にわたる文化財を多くの方に知っていただけると考えたのです」

開催は2月末と春の始まりのタイミング。「めでたきこと」をテーマに一年の開運を願うイベント開催が決まり、市内在住のプロによる舞踊や和装講座、学芸員によるトークイベントも加わり、さらに旧井上家住宅の隣ではマルシェも開かれることになりました。

五穀豊穣と予祝を表現する舞踊「三番叟」で、幸せのタネをまく

五穀豊穣を願い神に感謝する踊り「三番叟」を披露する若月仙之助さんは、日本舞踊家として世界を舞台に活躍しつつ、我孫子市内での活動も行っています。

若月仙之助さん 日本舞踊家 旧井上家住宅 日本のめでたきこと 

「日本舞踊には江戸時代までの日本の習慣や心のあり方、体の使い方などさまざまな要素が込められています。私は舞踊を通して、そうした背景も含めた日本文化を伝えています。今回の会場となる井上家は江戸時代に新田開発に携わり、米作りで栄えたおうちということもあって三番叟を選びました。日本の芸能には『予祝』といって、未来に起こるであろうめでたい出来事を先に祝ってしまうことで、現実に引き寄せるという考えが根底にあります。三番叟はそれを色濃く表しています」

今回は若月さんが舞踊を披露するほか、観客の皆さんと一緒に開運の儀式も行う予定だそうです。

「舞台の四方に塩をまいたり、舞踊で使う鈴を使って幸せのタネをまいたり、自分の足で大地を踏んで芽を生やしていく動作を通じて、一人ひとりの開運につなげていただけたら」

日本舞踊家 旧井上家住宅 日本のめでたきこと

ここ数年は地域で活動したいという思いが強まっている、とも若月さん。各地に伝わる民謡や舞踊は人間らしさが感じられて魅力的であり、地域外の人や、海外の人にもそうしたローカルなものが喜ばれるという実感があるそうです。

「おととしから我孫子市でも創作舞踊劇『手賀沼今昔ものがたり』を開催し、今年も8月にけやきホールで公演を行います。旧井上家と並ぶ今回のテーマである杉村楚人冠は、坪内逍遥訳のシェイクスピア全集を愛読していましたが、坪内は大正時代から廃れていった昔ながらの古典を復活させ、日本の作品としての軸を残しながら世界に発信する『新舞踊運動』」を提唱した人。その流れに手賀沼今昔ものがたりもあります。今回のイベントも含め、我孫子で踊れるご縁を感じています」

実は身近で精神性の深い「和装」から日本文化を楽しく学び、運を開く

和装開運講座を行う「和ごころを識る会」は、主に親子を対象として、日本文化を体験するワークショップや、伝統芸能の舞台を主催。代表の小竹かつらさんは幼少の頃から日本舞踊と英語を学んできた経験から、日本文化を世界に発信する活動に注力してきました。

日本舞踊家 旧井上家住宅 日本のめでたきこと  小竹かつらさん 和ごころを識る会

「日本文化というと、着付けや礼儀作法など堅苦しいイメージが強いかもしれませんが、実は日常に役立つヒントがいっぱいの身近なもの。着物も現代では『ハレ』のものとされていますが、本来は『ケ』のもの、つまり日常的な道具であり、これは大正時代に我孫子に暮らした美術評論家の柳宗悦が提唱した『用の美』の精神にも通じます」

着物は着ることで体が整い、その柄にも意味があり、着る人への思いがこめられているものです。取材時に小竹さんが着用していた着物も、未来永劫と平和な暮らしへの願いを表す「青海波(せいがいは)」をベースに、邪気をはらい、神を引き寄せる「勾玉」や「鈴」、災いや病から隠れて身を守る「隠れ蓑(みの)と隠れ笠」などがあしらわれていました。

日本舞踊家 旧井上家住宅 日本のめでたきこと  小竹かつらさん 和ごころを識る会

ただ着るだけでなく、こうした意味を知った上で着物をまとえば、お守りを見につけたような心強さを持てそうです。

「こうした知恵は、昔はおばあちゃんが教えてくれたものですが、今ではそういう機会も少なくなってきました。和装の話を通じて、日本は感謝と祈りに秘められた国であることを思い出していただけたらと思います」

今回は井上家の長持に保管されていた150年前の「かいまき」や、杉村楚人冠記念館の庭に咲く「椿」の柄についても解説するそうです。

「我孫子の街にはまだまだ知られていない、誇れる財産がたくさんあります。そうしたものを通じて、みなさんにこの街を、さらには日本という国をもっと好きになっていただければ。京都などにある文化財も素晴らしいのですが、このイベントではよりローカルな日本らしさを我孫子から発信し、世界に届けるきっかけになれば」

手賀沼に自生する「聖なる草」、真菰(まこも)の手仕事で開運体質に

真菰の開運飾りのワークショップを行う「豊かな湖沼を守る会」は、手賀沼・印旛沼の外来水生植物駆除作業に従事するメンバーで設立されました。普段は沼に立ちこみ、水の中から水辺に生える植物を手作業で駆除しています。

「日頃『駆除する』というマイナスな作業に携わる中で、プラスの行動をしたいと考え、沼周辺の自然環境の魅力を発信するための活動を始めました。沼に自生する植物を使った手仕事ワークショップもその一つです」と制作担当の松岡芳子さん。造園家としての経験や生け花、工芸などを研究してきた経験を生かして、今年の干支である龍のしめ飾りなど、さまざまな作品を生み出しています。

豊かな湖沼を守る会 日本のめでたきこと

今回は神事や仏事、しめ縄などにも用いられ「聖なる草」とも呼ばれる真菰でしめ飾りを作るワークショップを提供。さらに杉村楚人冠記念館の庭にあるツバキの実で「椿の花」の、手賀沼で採取した数珠玉で「椿の葉」のモチーフを作ってあしらう開運お飾りは、我孫子ならではの作品です。

豊かな湖沼を守る会 日本のめでたきこと

「現代の忙しい毎日の中では自分が好きなこと、心地よいと感じることも忘れてしまいがちですが、開運=運を開くためには、自分の感覚を研ぎ澄ませておくことが大事。ワークショップで植物を手にして、自然と触れ合い、自分の感覚を思い出す時間を持っていただけたらと思います」

日本古来の生活常識を見直すマルシェで、体、心、地球にも優しく

会場の隣で同時開催となるマルシェ「オーガニックピクニック」を主催するのは「オルカコーヒー」の伊藤彰信さん。自家焙煎したオーガニックのコーヒー豆10種類や、ハンドドリップで淹れたコーヒーをキッチンカーで販売するほか、市内で「オーガニック給食にする会」などの活動もしています。

オーガニックピクニック オルカコーヒー 伊藤彰信さん 日本のめでたきこと

オーガニックに着目したきっかけは、自ら健康でいたい、地球への負担を減らしたいという願いからだったそうです。

「市販の食品には、農薬や化学肥料をたくさん使って作られているものもあります。それらは私たちの体や、土壌や生態系にもダメージを与え、日本の農業は持続可能ではなくなってきています。かといって反対運動をするのも嫌なので、オーガニックを進めようと思いました」

オーガニックピクニック オルカコーヒー 日本のめでたきこと

「オーガニックピクニック」は23年にも旧井上家住宅の隣で開催し、今回は2回目。出店者は素材にこだわった韓国風のり巻のキンパ、抗生物質不使用の鶏肉を使った唐揚げ、野菜のお弁当、スイーツ、米粉パン、量り売りのドライフルーツ、といった飲食店や、アロマの香りのバスボム、オーガニックコットンの布ナプキン、草木染め小物などの雑貨店、ヒーリングなどの体験も予定しています。

「井上家は江戸時代に米作りで栄えたお家。農薬や化学肥料をできるだけ減らした持続可能な食品作りは江戸時代なら普通に行われていたことで、今回建物内で行われる日本古来の伝統芸能や着物、手仕事などの世界観とも密接に繋がっています。マルシェもオーガニック、エシカルな要素のある出店者ばかり。ここでの出会いを通じて、消費者が賢く選択し、良質なものが作られ、売られる世界が復活するきっかけになればうれしいです」

気軽に伝統文化や手仕事体験、質の良い食などに触れてハッピーな時間を

さらに敷地内の新土蔵では白樺文学館・杉村楚人冠記念館学芸員による人気トークの出前版「出張稲村雑談」も開催。テーマはズバリ「杉村楚人冠とは」で、ここでしか聞けない話に期待が募ります。

白樺文学館学芸員 稲村隆さん
白樺文学館学芸員・稲村隆さん

「我孫子を起点に日本の伝統文化や、質の良い食、体験などに触れられる貴重な機会。多くの方に足をお運びいただき、市内の文化財やさまざまな活動を知って、楽しんでいただければと思います」(今野さん)

先着あるいは申込で参加できる室内イベントでは、普段は公開されていない、旧井上家住宅の内部を見ることができるチャンスも。
寒い時期なので、ぜひ暖かい服装で足を運んでみてください!

日本のめでたきこと
会場/旧井上家住宅(千葉県我孫子市相島新田1)
開催日/2024年2月23日(金・祝)
開催時間/10時~15時(開館は9時〜)
三番叟(各回15分、先着20名、無料、予約不要)
10時〜/12時30分〜
和装開運講座(各回15分、5名、300円、要申込)
10時30分〜/11時30分〜/13時30分〜/14時30分〜
開運飾り作り(各回30分、5名、300円、要申込)
11時〜/13時〜/14時〜
出張稲村雑談(各回60分、先着20名、無料、予約不要)
10時30分〜/13時30分〜
料金/入場無料
駐車場/40台
アクセス/電車の場合:JR布佐駅南口から徒歩20分 
車の場合:手賀沼ふれあいライン沿い
問い合わせ・申込み/教育委員会 文化・スポーツ課 04-7185-1583