印西市在住のナチュラリスト ケビン・ショート氏 「北総地帯の里山は魅力がいっぱい」

千葉県印西市在住の人類学者ケビン・ショートさんは、日本の里山の研究者として活躍している方。

中でも、ケビンさんの住む北総台地の里山については、「現代的な人々の暮らしのすぐ近くに、昔ながらの景観が見られる貴重な場所」と話し、自身の研究のフィールドにもなっています。

そんなケビン・ショートさんに、知られざる千葉の里山の魅力についてお聞きしました。

印西市在住のナチュラリスト ケビン・ショート氏

PROFILE
1949年アメリカ・ニューヨーク生まれ。ナチュラリスト。スタンフォード大学文化人類学生態学専攻博士号取得。20代で米軍兵として来日。暮らすうちに日本の歴史や文化にひかれ、上智大学夜間部に入学。1987年に千葉ニュータウンに居を構えると、住宅地を囲む豊かな里山に感銘を受け、千葉の北総地帯の里山の研究を開始。現在は、著書や観察会などを通じて自然や伝承文化の面白さを発信している。「ケビンの里山自然観察記」「ケビンの観察記──海辺の仲間たち」など著書多数。

※記事内のイラストはすべてケビン・ショートさん提供

 

里山を形成する3つの要素

そもそも「里山」とはなんでしょう?

ケビンさんによると、「人々が自然に働きをかけて創り出す環境」とのこと。

里山とは

もともとあった林や森に、人の手が入り田畑や水田や集落などが作られることで、その影響を受けた生態系が生まれる。さらに住む人々の文化が混ざり合い、人を含めた多様な生き物が共存する。

それが「里山」です。

――ケビンさんは昔から自然がお好きだったんですか?

ケビンさん:

はい。自然は好きでしたが里山に興味を持ったのは、約30年前に千葉ニュータウンに住み始めてから。

家の近所の林や田畑を子どもと一緒に見て歩いているうちに、小さな自然の中にたくさんの生き物や野の花が息づく「里山」に興味がわいたんです。

里山の景観は、雑木林や草原などその場所にもともとある「自然」、そこに暮らす人々の心にある「スピリチュアルな文化」、生き物や植物の「生態系」という3つの大きなエネルギーが互いに作用し合って、作り上げているものだと私は考えています。

なので、私が行う自然観察会では、里山で見られる植物や虫、鳥、動物などについての解説だけでなく、民間信仰(フォークスピリチュアリティ)についての説明にも重きを置いているのですよ。

 

――里山の風景から民間信仰が感じ取れるものですか?

ケビンさん:

もちろん感じられます。

特に北総台地には「フォークスピリチュアリティ」にまつわる道祖神や庚申塚、身近な神様をまつる祠(ほこら)などが広く点在しています。

また、農村ではよく水を司る「水神さま」が祭られていますが、同じ水神さまでも地域によってご利益が異なるのが面白いですね。

例えば、谷津を利用した水田が多い地域では、安定した水の供給を祈って水神さまを祭ります。

一方で、利根川の周囲には平らな田んぼがあり、川の氾濫による増水が致命傷になりかねません。なので、水のエネルギーを抑えるよう水神さまに祈願をします。

かつて千葉の北部では、水運を使った物資の運搬がさかんでした。この地域では、海上安全、商売繁盛のご利益があります。

里山を歩くとき、そういう点に着目してみると、そこで暮らしていた人々の生活や風習が浮かび上がり、また違う視点でその地域を見ることができますよ。

 

――千葉ニュータウン近郊に加えて、2020年3月まで教鞭を取っていた情報大学からほど近い吉岡地区もよく歩かれるそうですね。

ケビンさん:

四街道市の吉岡地区はフォークスピリチュアルの観点からもとても興味深い場所です。

吉岡小学校の脇には道祖神がまつられているのですが、ここにはかつて鬱蒼とした深い森があり、「なんじゃら様」という神さまに守られていたといわれています。

この森の木を勝手に切ると「なんじゃら様」の怒りに触れて、よくないことが起こる…なんていう、ちょっと怖い話なのですが。

今ではもうこの森はありませんが、近くにムクの木やコナラなどが観察できる小さな雑木林が残っています。

あとは庚申信仰の名残りも見られます。

庚申信仰とは

人間の体内には三匹の悪い虫が住んでいるといわれています。

60日に一度来る「庚申(こうしん・かのえさる)」の晩、寝ている間にその虫が体内から這い出し、天に昇ってその人間の悪事を報告し、報告された者は罰として寿命が縮まると言い伝えられていました。これを恐れた村人たちは、庚申の晩に集まり、寝ずに朝まで過ごすように。この風習は「庚申待ち」と呼ばれ、かつては南関東各地の集落で行われていました。

ケビンさん:

庚申信仰では、ご本尊として「青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)」という仏様が祭られます。

強面で6本の腕に武器を持ち、とぐろを巻いたヘビの冠を被っている、いかにも強そうな姿が特徴です。

吉岡の庚申塚にある青面金剛像は300年以上前のものですが、県内でもトップクラスの保存状態の良さ。

面白いのがココ、ほら見てください、腕に巻かれたヘビのブレスレットまではっきりと確認できるんです。

庚申信仰

本当はこんなカラフルじゃないけど(笑)、分かりやすいようにイラストでは色を付けてみました。

吉岡の庚申塚をはじめ、多くの青面金剛像は、集落の入口に鎮座していることが多いですね。

悪霊や疫病神を集落に入れさせない、ガードマンのような役割も果たしているのかもしれません。

地域の人に里山の魅力を伝える

――里山観察会は、定期的に行っているのですか?

ケビンさん:

吉岡地区では、数年前から毎年春と秋に観察会を実施しています。

(※編集部注:2020年春の開催は中止)

これは、吉岡の里山保全を目的に活動する団体「Y・Y・NOWSON」代表の岡田さんと出会ったことがきっかけ。

当時まだこの団体はなくて、たまたま情報大学のゼミの教え子たちと散策しているとき、自宅前の畑で草取りをしている岡田さんと話をしたのが始まりでした。

岡田さんは、「何か楽しいことを企画して人を集めて、集まってくれた人たちに吉岡の魅力を発信する活動がしたい」とおっしゃっていて、一緒にやらないかと私に声を掛けてくれたんです。

ケビン・ショートさん Y・Y・NOWSON代表の岡田はる美さん、「よつグルメ研究会」の毛見文枝さん
▲左からY・Y・NOWSON代表の岡田はる美さん、ケビンさん、「よつグルメ研究会」の毛見文枝さん

 

その後、環境に負担を掛けない農法を提唱する「自然農塾」、四街道のご当地グルメを開発する「よつグルメ研究会」、岡田さんが運営する「一村のアトリエ」、そして私が所属していた情報大学の4者共同で「Y・Y・NOWSON」が誕生しました。

その活動の一環として春と秋の観察会もスタートしたんですよ。

 

――それにしても、ケビンさんのイラストは色使いが鮮やかで温かみがあり、とてもかわいいですね!

ケビンさん:

イラストはすべて独学です。

生き物でも石仏でも見たままありのままを描くようにしています。

地域の小学生と観察会を行うときなどは、説明イラストをこんな風にラミネートして配ることもありますよ。

 

ケビン・ショート氏 里山野の花スケッチ

 

面白そうな花を選んで、花のつくりを視覚的に分かるようイラストをおこします。

着色は色鉛筆が多いですね。

ケビン・ショート氏 イラストは色使いが鮮やかで温かみがありとてもかわいい

 

他にも、「千葉ニュータウン新聞」でコラムを書いたり、各地の里山のガイドブックを作ったり…。

そこに載せる文章やイラストはもちろん、マップも描くし、写真も自分で撮ります。

 

最重要補語生物にも指定されているニホンアカガエル
▲最重要保護生物にも指定されているニホンアカガエル

 

ケビンさん:

これまで何度か情報大学の生徒と八甲田山に出掛けて「毎木調査」を行ってきました。

「毎木調査」とは、森林を区分けてしてそこにある樹木の高さを測ったり、種名や位置を記録したりして、シーズンを通してプロフィールを作るものです。

これを今後、千葉ニュータウンや吉岡の里山でもできたらいいなあと考えています。

助手は近隣の小学生たち!

区分けするのにロープを張ったりするので、子どもたちなら楽しみながらやってくれるんじゃないかと思っています。

 

――最後に、北総台地の里山の一番の魅力ってなんでしょうか?

ケビンさん:

東京から開発の波が押し寄せて住宅地や商業地が作られた中で、ぽっかりとそこだけ昔ながらの自然豊かな里山風景が残っているところですね。

季節の虫や植物、スピリチュアルな文化を感じる石仏や道祖神…歩くたびに新しい発見がある里山がこんなに身近にあるなんて、とても素晴らしいことですよ!

 

――ありがとうございました!

 

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編集部 テラモト

編集部 テラモト

WEB編集者。千葉市生まれ、千葉市在住のアラフォー。編集プロダクションなどを経て「ちいき新聞」編集部へ。甘いものとパンと漫画が大好き。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。

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