埼玉T.Wingsに聞きました「 教えて!ブラインドサッカーのこと」
東京2020パラリンピックでは22競技の開催が予定されています。
その中の一つがブラインドサッカー(5人制サッカー)。
楽しく観戦するために基本情報や観戦ポイントを知っておきたいですね!
そこで、埼玉唯一のブラインドサッカーチーム、「埼玉T.Wings」に話を聞きました。
公開 2020/01/07
目次
ブラインドサッカー、押さえておきたい基礎知識
やってきたのは「クーバー・フットボールパーク武蔵浦和」。
こちらは、埼玉T.Wingsの練習場所の一つ。
加藤健人選手、菊島宙(そら)選手といった、男女のトップ選手が所属する強豪チーム。
現在、登録メンバーは約20人。
視覚障害が無い人もプレーヤー、サポートメンバーとして活動しています。
埼玉T.Wingsの皆さん
まずはブラインドサッカー基本情報を聞きました。
〈ピッチ&サイドフェンス〉
練習はフットサルのピッチで行っています。
ブラインドサッカーは、フットサルのルールをベースに考案されている5人制のサッカー。
試合で使われるピッチの大きさは縦40m、横20m。
サイドラインには高さ1mほどの「サイドフェンス」が設けられています。
白いパネルのようなものが「サイドフェンス」。大きな大会ではスポンサー名が入っています
サイドフェンス際で行われる激しい攻防戦はブラインドサッカーならではのもの。
最近では透明のサイドフェンスも登場しており、迫力あるプレーが楽しめるそうです。
〈メンバー〉
ピッチに立つメンバーは5人。
フィールドプレーヤー4人はアイマスクを着用。
ゴールキーパーは弱視者または晴眼者(目に障害がない人)が担い、相手選手やボールの位置などを伝えています。
この5人の他に重要な役割を果たすのが「ガイド」と「監督」。
ガイドは敵陣のゴール裏に立ち、選手にゴールまでの距離や角度、相手の位置など伝える役割。
選手たちは見えていないので的確な情報を伝えなければなりません。
また、試合中は選手のテンションが上がり、声が聞こえていないこともあるので、大きな声を心掛けているそう。
ガイドは敵陣ゴール裏で指示を出す
監督はサイドフェンスの後ろから、中盤のプレーの指示出しをします。
キーパー、監督、ガイドは、それぞれ指示出しをしていいエリアが決まっていて、エリア外で指示を出すとイエローカードの対象に!
指示だしエリアはこのように分かれています
ピッチに立つのは5人ですが、試合は監督・ガイドを含めた7人で戦っているんですね!
〈アイマスク〉
ピッチに入る前にフィールドプレーヤー4人が着用するのは「アイマスク」。
視覚障害といっても状況はさまざまなので、見え方に差が出ないようにアイマスクを着けます。
アイマスクをつけるのはフィールドプレーヤーの4人。
公式大会ではアイマスクの下にアイパッチもつけるという厳重ぶり。
アイパッチを着ける=試合に合に立ち向かう時。
いつもとは違う緊張感があるそうです。
〈ボール〉
ボールには鉛玉のようなものが埋め込まれ、転がると音が鳴ります。
あまり弾まず、音が鳴る部分は硬いので、当たると痛いそう…
右側の青い部分は左に比べ汚れていますが、ここに鉛玉のようなものが埋め込まれています
しかし、実際に聞いてみると想像していたよりも音が小さくてビックリ!
また、ボールが止まると音がなくなるため、ボールが止まるプレーはとても難しいそうです。
〈ボイ!〉
ボールを持っている相手に向かう時は「ボイ」と言って自分の存在を知らせないといけません。
これは衝突を避けるためのルール。
発しない時はファールを取られます。
「ボイ」はスペイン語で「行く」という意味
〈観客〉
選手はボールの音、監督やガイド、選手同士の声を聞いてプレーをしているので、
プレー中、観客は声を出して応援してはいけません。
しかし、ゴールが決まったときは大声援を送りましょう!
見えていないのに激しいプレー!なんで?!
埼玉T.Wingsの練習中、不思議な光景がありました。
アイマスクをして見えていない加藤健人選手が仲間のプレーに対し、アドバイスをしていました。
なぜそんなことができるのかと尋ねると「頭の中で状況をイメージしているから」との返事。
上手な選手になればなるほど、頭の中でイメージする状況が大きな役割を占めるそう。
頭の中のイメージと現実をどれだけマッチできるかが重要だといいます。
ボールの音、信頼できる仲間の声を基にイメージを広げ、次に何をするかを考えているからこそ思い切ったプレーができるんですね。
試合では、見えない中でボールを奪い合う激しさ、華麗なドリブルにシュートに驚くこと間違いなし!
ボールを持っていない選手がどんな動きをしているかも注目です。
強豪!埼玉T.Wings
チームは2003年に創立。
2007年に「埼玉T.Wing」に改称し、さいたま市を拠点に週1回定期練習を実施しています。
埼玉T.Wingsは、ディフェンスからの素早い攻撃が特徴。
2019年のブラインドサッカー日本選手権では優勝、東日本リーグでは準優勝と好成績を収めています。
これまでの成績やチームの最新情報はホームページをチェック!
練習中、ひときわ大きな声を出していたのは菊島充監督。
厳しい声を飛ばし、ピリッと引き締まる瞬間もあれば、ユーモアあふれる声に笑いが出ることも。
監督でありながら、ムードメーカーのような存在です。
厳しさが無いとトッププレイヤーになれない。見えている人と同じサッカーを目指す
と力強く話す監督。
「考えてドリブルしろよー!」と大きな声が響いています
そんな監督は、菊島宙選手のお父さん。
「見えない中でプレーするのは怖いと思う」と、父親の顔をのぞかせる場面も。
監督の大きな声は、メンバーが勇気をもってプレーできるための大事な存在になっていると感じました。
埼玉T.Wingsキャプテン、加藤健人選手インタビュー
フィールドプレーヤー 加藤健人選手(35歳)
福島県出身。埼玉T.Wingsキャプテン。サッカーを始めたのは小学3年生。17歳頃に視覚障害が分かり、19歳でブラインドサッカーに出合う。関東リーグ新人賞(2004年)を獲得。北京パラリンピックアジア予選日本代表(2007年)に選出されて以降、日本代表に選ばれ続けている。
――17歳で視覚障害が分かったそうですが、どう受け入れたのでしょうか
どう受け入れるかというよりは、この状態を「当たり前」と思うこと。
僕にとってはこれが当たり前の見え方なので、これが普通だと。
そこに気持ちを持っていくには一人では難しいので、いろんな経験や人との出会いで変わってくるのかなと思います。
以前は周りに視覚に障害がある人がいなかったので、これから何をどうすればいいか、この先何もできないのではと悩んで、引きこもっていた時期がありました。
ですが、両親が「健人のために何かできることがあるんじゃないか」といろいろ探してくれて、ブラインドサッカーを見つけてくれて。
ブラインドサッカーではいろんな経験をさせてもらったり、いろんな人と出会ったりできました。
その中で、考え方が変わってきたなと思うことは、視覚に障害があるからといってもできないことばかりではなくて、やればできるだなと実感したことです。
できなかったとしても、いろんな人の協力を得てできるようになったり、自分で工夫してできるようになることもあるし。
いろんなことに挑戦することは大事だと感じましたね。
――ブラインドサッカーと一般のサッカーとの違いは何ですか?
見えないので、基本的には見えているサッカーとは違うのかなと思います。
見えているときであれば技術を生かせますが、音や声を聞いて動いているので、ボールを止めるトラップが難しい。
――音が無くなってしまいますね。
鳴っているボールに反応していたので、聞こえ方の慣れがないとトラップは難しいです。
止め方はサッカーの技術ですが、ボールを止めることはサッカーに関係ないので、一番難しいですね。
あとは、ボールが無い時の動き。
見えていればボールが今どこにあるのかを見てポジションについたりできますが、それを見えない状態でやらないといけない。
味方の声・敵の声を聞きながら、ポジションにつかなければいけない。
今何が起こっているのかを頭の中でどれだけイメージできていないと難しいですね。
――ブラインドサッカーでプレーできるようになって頭の中でイメージできるようになるまで、どのくらいかかりましたか?
僕の場合で言うと、まだまだですね。
――まだまだなんですか?!
見えていない分、今起きていることと頭の中でイメージしているものがどれだけ一致しているのかが重要で。
でも見えていないので、100%は近づけない。
ボールを止めて、ドリブルしてシュートしての間でミスをしてしまうこともありますし。
それをなくすためにイメージの確率を上げていかないといけないので、「ブラインドサッカーができた!」と言うのは、なかなか難しいんじゃないですかね。
教えてもらってもその時基礎はできても、イメージして考えてやらないと次につながらない。
何でできたか、何でできなかったかを考えてやらないと成長しないんじゃないかなと思います。
――ブラインドサッカーの見どころを教えてください
選手は音を聞いているので、観客は声を出して応援しちゃいけないんです。
なので、ゴールした時は一緒に喜んでほしいですね。
あとは見えない中でのボールの奪い合いの激しさ。
その激しさの中で華麗にドリブルしたり、シュートしたり、見どころはいろいろあります。
サッカーを知ってても、知らなくても楽しめると思いますよ。
――ブラインドサッカーの魅力はなんですか?
障害者なくてもアイマスクをすれば一緒にプレーもできるし、ガイドやサポートなどでいろいろなかかわり方あるので、ブラインドサッカーに興味を持ってもらいたいです。
体験も実施しているので気軽に参加してほしいですね。
そして、視覚障害の理解につなげてほしいです。
見える人が見えない人に伝えるのは結構難しいんです。
伝えるにはコミュニケーションが重要ですが、それって「見える」「見えない」は関係ないことです。
普段皆さんの言葉が、どれだけ相手に伝わっているか。
ブラインドサッカーを体験すると分かりやすいと思います。
皆さんの会社や学校、日常生活に関わることなので、生かせることがたくさんあるんじゃないかなと思います。
――現在の目標は何でしょうか?
3月にブラインドサッカーワールドグランプリがあるので、まずはそこに選ばれること。
そして、また次の大会にも選ばれるようにプレーする…という感じです。
――選ばれるのは何人ですか?
フィールドプレーヤー8人、ゴールキーパー2人です。
――パラリンピックも間近ですが…
そうですね。
パラリンピックはみんな目指している中で、選ばれない選手もいます。
自分は選ばれるだろうという気持ちではないですね。
なので、まずは8人の中に選ばれるように練習してトレーニングして、プレーしていかないといけないと思っています。
菊島宙選手インタビュー&体験会のお知らせ
フィールドプレーヤー 菊島宙(そら)選手(17歳)
東京都出身。東京都立八王子盲学校2年生。小学2年生からサッカーを始める。徐々に視力が悪くなり、小学5年生からブラインドサッカーに転向。2018年・2019年の日本選手権で2年連続得点王に輝く。
――練習中に味方同士でぶつかる場面がありましたが、よく起こることですか?
しょっちゅうあります。
――そうなんですか!けがしたりしませんか?
自分は八重歯があるので、唇が当たって切れたりします。
試合の次の日は「どうしたの~?」って聞かれます(笑)
――監督や加藤選手から、「女子の中で世界トップクラス」といわれていますが、現在の目標は何ですか?
女子は競技人口が少なくてパラリンピックにはまだ出られないので、自分のプレーで「女子でもこれだけできるんだよ」っていうことを見せて、競技人口を増やしていきたいです。
それで、パラリンピックに出られたらいいなーと思います。
はにかみながら答えてくれた宙選手。
練習中もするどいシュートを何本も決めていましたが、ブラインドサッカーを始めた頃は壁のそばにたたずむ消極的なプレーヤーだったそう。
開眼したのは中学2年生のとき。
けがで欠場になった加藤選手が「宙、まかせた」と声を掛けたのがきっかけになり、吹っ切れたプレーでみるみる上達。
数々の試合で得点王やMVPに選ばれ、2017年には女子で初めて日本代表の強化合宿に参加するなど、まだまだ伸び盛りです。
そんな宙選手がブラインドサッカー体験会を実施します!
おやこで挑戦!パラスポーツ <ブラインドサッカー>
日時:2020年1月26日(日)①10:30~12:00 ②13:30~15:00
会場:埼玉県県民活動総合センター 体育館(埼玉県伊奈町内宿台6-26)
対象:3歳以上(アイマスクを着用してプレーします)
定員:各回親子20組 ※12/2~受付開始
参加費:お子様お一人500円
持ち物:運動しやすい服装、室内用運動靴、タオル、飲み物(水分補給用)
申し込み方法:電話 または 来館(9:00~17:15 ※休館日除く)
申し込み・問い合わせ:048-728-7116 活動支援担当
また、埼玉T.Wingsでは随時見学も受付中です。
活動日はHPのスケジュールで確認を!
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