競技用車いすのメーカー「OX」工場へ!製造から競技の楽しみ方まで紹介
市街地から離れ畑が並ぶ千葉市若葉区の沿道に、その世界的企業はありました。
匠の技でパラアスリートをサポートしてきたOXとは一体どんな会社なのか?
取材に伺い、気になる工場の様子も見学させていただきました。
(取材日/2019年11月20日)
公開 2020/01/07
編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
記事一覧へトップアスリートも愛用!世界に誇るブランド「OX」
株式会社OXエンジニアリング(以下OX)は競技用車いすのトップメーカー。
男子テニスでグランドスラムを達成した国枝慎吾選手をはじめ、数々のトップアスリートやメダリストが同社の製品を愛用しています。
2015年には当時の天皇皇后両陛下も行幸されました。
一流の証ですね。
本社社屋のある敷地内で、車いすのデザインから設計、製造まで行っています
広報の櫻田太郎さんに展示してある製品を紹介してもらいました
展示コーナーに案内されると、技術の粋を集めた車いすがズラリ!
意外にも、その半分は日常用車いすでした。
競技用専門というわけではないんですね。
「主力商品は日常生活で使う、アクティブユーザー向けの車いすです。
競技用は全体の1割ぐらい」と櫻田さん。
車いすメーカーとしての地位を築いたOXですが、1976年の創業当時はヤマハ系のオートバイショップでした。
販売の他、現在の技術力の礎となるパーツやエンジンも開発。
88年、騒音などに配慮し、開発や製造拠点を人家の少なかった現在地にも拠点を設けました。
OXの創業者・石井重行氏
創業者の故石井重行氏は販売店を営む傍ら、モーターサイクルレースのライダー兼ジャーナリストとして活躍していましたが、撮影中の事故で脊髄を損傷します。
車いすユーザーとなったものの、当時市販されていた製品に満足できず…。
何台か乗り換えた末、自分で作るようになりました。
90年、本格的に車いすメーカーになることを決意した石井社長。
92年に販売開始、翌93年にはすぐに競技用車いすの販売が始まりました。
ずいぶん早いですね!?
「競技用を作ることは車いすメーカーに業種転換した時から決まっていました。
『製品の良さを知ってもらうには、大会で好成績を取ることがベスト』というのはレース活動の経験から分かっていましたから」。
この企業戦略は功を奏し、まず96年アトランタでのパラリンピック大会で2個のメダルを獲得します。
メダリストとなった畝(うね)康弘選手はOXの社員でした。
「選手の声を直接聞けるというのは大きなメリット。
選手を社員として迎え入れ製品開発を急ぎました」。
技術に磨きをかけたOXは続く長野大会でも32個のメダル獲得に貢献。
その名を知られるところとなり、選手からのオファーも増えていったそうです。
国枝慎吾選手が使用したテニス用車いす。
トップアスリートと共に世界の舞台で戦ってきた特別な一台です
競技用車いすができるまで製作現場を密着取材!
最高のパフォーマンスが求められる競技用車いす。
OXでは選手へのヒアリング、採寸を経て、ほぼ全てオーダーメイドで作成しています
(一部、初心者用などの例外を除く)。
体にフィットしないと動きに影響するので、フィット感はとても大事。
選手の体格や可動域によっても形状が変わってきます。
気になる所があれば、OX担当者と何度もやりとりしながら図面に修正を重ね、納得の1台を完成させます。
長い人だと数カ月にも及ぶことも!
選手の要望をCADに落とし込み図面を完成させる
図面担当の宮﨑さん。数カ月前、製造から異動したばかり。
「自分が図面を引いた選手が活躍するとうれしいですね」
さて、いよいよ工場に案内してもらいます。
意外とこぢんまりとした工場内です
室内では5人の社員が溶接、組み立て、仕上げなどを分担しながら行っていました。
OXの社員は「ものづくりがしたくて」入社してきた人が多いのだとか。
「基本、『タイヤがついてるものが好き』という人が多いですね」(櫻田さん)。
組立て作業中。背後には仕分けされた部品棚
カスタマイズのために常時多品種のパーツをストック。
例えば競技用の場合、正面から見るとホイール(車輪)が「ハ」の字の形になっていることが多いですが、この「ハ」の字の角度を調整するパーツも1度単位でそろっています。
バスケットボール用の場合は14度から20度まで7種類、テニス用は15度から21度まで7種類、レーサーは11度から14度まで4種類とのこと、驚きの細やかさですね!
最初はシンプルなアルミパイプの状態から製造スタート
アルミパイプを図面通りのサイズに切ったり曲げたりして形を作っていきます
(現在は新潟の長岡工場で曲げてから千葉に来る場合が多い)。
「溶接ジグ」という装置に材料を固定して位置を決め、溶接していく
こうしてフレーム部分が完成したら塗装ですが、競技用の場合は無塗装が基本。
その方が後で微調整のため再度溶接することになったとき、都合がいいとのこと。
その後、フレームに座面や部品など(これらも社内で作成)も付けて組み立て、いったん完成です。
車いす1台を溶接するのに平均2日かかるとのこと。
1台1台、人の手によって本当に丁寧に作られているのがよく分かりました!
真っすぐ走るかどうかをチェック。曲がるようなら修正します
最終チェック。
寸法が図面通りになっているか、必要な部品が全て付いているか、30分ぐらいかけて入念に調べています
注目の車いす競技は?OX広報さんが勧める楽しみ方
今年はいよいよ日本でパラリンピックが開催されます。
日本でも、「東京開催が決定してから機運の高まりを感じます」と言う櫻田さん。
漫画などの題材にもなっているバスケや世界チャンピオンを輩出しているテニスなど球技が注目されがちですが、レースもお勧めとのこと。
トップ選手の場合、トラック競技だと35㎞/h以上、マラソンは平均約30㎞/hものスピードで走るそうです。
速い!
自動車並みですね。
「選手同士のさまざまな戦略や駆け引きが見られるので面白いですよ。
種目によっては、自転車競技のように前の選手を風よけにするような作戦も見られます」。
どうやらまだまだ知られていない楽しみ方が宝のように埋まっていそうな予感!
陸上の面白さを熱く語る櫻田さん
最後に、OXの今後について教えてください。
「車いす競技の選手と一口に言っても、トップアスリートから趣味として楽しんでいる人などさまざまです。
勝つことが目的の選手には、現状の課題解決をサポートできる製品を、純粋に競技を楽しみたい選手にはそれに適した製品を。
それぞれに納得してもらえる製品を作ることが大事だと思っています。
また、競技用車いす制作で培った技術や研究成果を、日常用の製品の品質向上にも生かしていきたいですね」。
OXの企業理念は「未来を開発する」。
これからもアッと驚くような高性能の製品でアスリートの夢をかなえ、私たちにもワクワクする未来を見せてくれそうです!