NPO法人キーアセット千葉オフィスに聞く「里親制度」って何ですか?
2018年上半期(1~6月)、児童相談所が対応した児童虐待件数が過去最多となり、子どもたちを取り巻く状況に社会的な関心が高まっています。
虐待やネグレクトだけでなく、死別や親の薬物依存、病気、経済的事情などさまざまな事情から、家庭で育つことのできない子どもをある一定期間養育してくれるのが「養育里親」。
日本では昔から、社会的養護が必要な子どもの生活場所は児童養護施設や乳児院といった施設が中心でした。
しかし、2011年より政府は家庭的な環境での養育を重要視し、「里親委託ガイドライン」を作成するなど「里親制度」の強化・普及を進めています。
ただし、日本での委託率は全国平均で18.3%(平成28年度末現在)とまだまだなじみが薄いのが現状。
そこで、「里親制度」の周知や啓発、里親のリクルートから里親登録、その後のサポートを包括的に行うNPO法人キーアセット千葉オフィスに里親の役割や必要性についてお話を伺いました。
(この記事は2019年4月19日に更新されました)
左から、マネージャーの吉川昭代さん、リクルートコーディネーターの髙橋由美子さん、ソーシャルワーカーの安藤美祐さん
公開 2019/04/24
編集部 モティ
編集/ライター。千葉市生まれ、千葉市在住。甘い物とパンと漫画が大好き。土偶を愛でてます。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。★Twitter★ https://twitter.com/NHeRl8rwLT1PRLB
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知っているようで知らない里親制度「養育里親」と「養子縁組里親」の違い
さまざまな事情から、親元では暮らすことのできない子どもたちを家庭に迎え入れ、保護し、育てる…と聞くと、「養子」を思い浮かべる人も多いと思います。
ところが、実は「養育里親」と「養子縁組里親」はまったくの別モノなんです。
※里親制度の中に、「養育里親」と「養子縁組里親」があります。
「養子縁組里親」とは…
養親の戸籍に保護対象の子どもが入ることで、戸籍上の家族として認められる制度。
「養育里親」とは…
さまざまな理由で親元を離れなければならない子どもを、ある一定期間または子どもが社会的に自立する年齢(概ね18歳*場合によっては20歳)まで家庭で「養育」する制度。
そのため、養育期間は数週間から十数年と子どものニーズによって異なります。
簡単に言えば、戸籍上で「家族」となるのが「養子縁組」、ある一定期間家庭に迎えてその子どものニーズに合わせて養育するのが、「養育里親」です。
実親と生活ができない子どもが千葉市にはおよそ170人いますが、「養育里親」として登録している家庭の数はおよそ60家庭。
まだまだ、里親は足りていない状況なのだそうです。
では、親元で暮らせない子どもたちはどこで暮らしているのかというと、そのほとんどは乳児院や児童養護施設。
ですが、子どもたちにとって生まれた「地域」にある「家庭」で育つというのは、成長の上でとても大切なことなのです。
例えば、赤信号で親が「危ない!」と小さな子どもの手を引くよくあるシーン。このとき子どもは言葉だけでなく「手を引かれた」という感覚でも危険さを知ります。
また、ご近所さんとあいさつを交わしたりスーパーへおつかいに行ったり、地域に根差して暮らすことで社会への適応能力を培っていきます。
このようにふとした日常の中で子どもは「生きる力」を身に付けていくもの。
大勢の子どもに対して、少人数の施設職員(※編集部注:小学生であれば4~5.5人に対して職員1人の配置)が対応する施設では、家庭のような環境で生活することが難しい場面もあるのです。
もちろん中には、専門性や多機能を備えた施設での生活が必要な子どももいます。
「養育里親家庭」はあくまで、子どもたちにとって最善の環境で暮らすための選択肢の一つ。
ただ、里親の登録人数が十分でない現在は、その選択もすべての子どもができるわけではないといえます。
子どもたちには、「おかえり」「ただいま」と迎えてくれる安心して安全に暮らせる環境と、自立した大人への成長過程として大切に愛情をもって養育されることが必要です。
それは、全ての子どもに与えられる権利です。
だからこそ、「里親制度」の普及は喫緊の課題と考えられています。
里親に向いているのはどんな人?
興味はあるけど「自分にできるだろうか…」と不安に思う人も少なくないはず。
現在、里親として活動しているのは、子育てがひと段落した夫婦のご家庭、子育て真っ最中のにぎやかなおうち、お子さんのいらっしゃらないご夫婦、独身の方などそれぞれ年齢も環境も異なります。
「向き不向き」は一概にはいえませんが、大切なのは「1人で抱え込まないこと」なのだそう。
キーアセットが重きを置いているのは、積極的に里親さんとコミュニケーションを取ること。
「小さなことでも共有しながら、チームワークで子どもを育てましょう」と里親さんにお話しています。
中には「子どもが100点をとった!」「こんなイタズラした!」など些細なことでも気軽にメールしてきてくれる里親さんも!
血のつながらない子どもを育てる上で、やはりさまざまな壁にぶつかることがあるので、情報を共有しながら辛い時には「しんどい」と話せることも重要なんですね。
子育て全般に言えるのかもしれませんが、予測しないことがたくさん起こるので、「こうじゃなきゃいけない」とがんじがらめになるより、どちらかといえば楽観的に構えておくことがポイントなのかもしれません。
そして、もう1つ忘れてはいけないのが「養育する子どもには実親がいる」ということ。
環境や状況が整えば、親元に子どもを帰すことも里親制度の目標の一つであるということも理解をしておきましょう。
養育里親に子どもをお願いするときには、家庭に帰る時期などについて見通しを示しています。
ただ、状況は変化することもあり、初めの見通し通りに行かず、数年のつもりが、18歳まで育てた…ということもありますし、逆も然り。
子どもをはじめ、実親の気持ちや養親の家庭環境など、さまざまな要因によって事情も変わってくるんですね。
なお、養育する子どもについて年齢や性別を指定することはできませんが、面談などで養育期間や年齢・性別の要望、家庭環境をお聞きする機会はあります。
ただし、子どもを迎えていただく家庭を決める際に最も重視するのは「その子どもにとって最善な環境なのか」という点。
例えば、「この子どもは健康状態に不安があって通院が定期的に必要だがその対応が可能か」「注目されるのが少し苦手だから、子どもが複数いる家庭がよい」など。それについては、児童相談所の方と一緒に考えていきます。
そして中には一緒に生活をしてみて、うまくいかなかったというケースもあります。
「委託が始まるとキーアセットも訪問支援などのきめ細かなフォローをするので、その中でしんどいこと、困ったことがあればどんどん相談し、ベストな選択を一緒に探っていきましょう!」と話してくれました。
里親になるには
「養育里親」になるのに特別な資格などは必要ありませんが、千葉市では結婚している場合、夫婦それぞれ登録する必要があります。
「養育里親」に少しでも興味がある人は、キーアセットに電話でお問い合わせすれば、制度について詳しい説明を聞く場を設けてもらえます。
その後は何度かの面談や研修を経て、互いに納得した後に登録。
だいたい、問い合わせから登録まで半年ほどかかる場合が多いとのことです。
(1)相談
里親に興味を持ったらまずはキーアセットに問い合わせを。
「養育里親」についてより詳しく知ることができる説明会も定期的に実施しています。
(2)面談
面談は2~3回。
初回は「里親制度」についての説明が中心。
2回目以降は、里親になりたいと思った動機やご家族のこと、またどんな里親になりたいか、不安に思っていること…などをヒアリングします。
(3)登録前研修(講義・実習)
講義では、キーアセットオリジナルのテキスト6冊を用いて、養護の子どもを預かるにあたり大事なことをしっかり学びます(3日間)。
実習は、乳児院または児童養護施設に出掛け、実際に子どもたちと触れ合います(2~3日間)。
(4)家庭訪問
児童相談所のケースワーカーとキーアセットが登録希望者の自宅を訪問し、家庭環境を確認します。
(5)児童相談所長面接
千葉市では、児童相談所の所長さんと直接面接をしていただきます。
(6)社会福祉審議会
面接や研修を踏まえ、登録の認定が審議されます。
(7)登録
審議会から認定が下りると「養育里親」としての登録が完了します。
登録までのプロセスをキーアセットでは「お互いを知り、関係性を築く」ものだと考えています。
キーアセットは里親希望者の「強み」がどういうものかを知り、里親希望者は「キーアセットと一緒にやっていけるかな…」という点をしっかりと見る。
登録までの半年間はそのような時間にしてほしいと話してくれました。
最後に、一歩踏み出せず迷っている人へメッセージをいただきました。
「もちろん、いきなり『登録』というのはハードルが高いと思います。
お問い合わせの時点で不安や疑問にお答えしたり、ソーシャルワーカーがお宅に訪問することも可能です。
私たちキーアセットと一緒に『里親』という生き方を選ぶことについて考えてみませんか?」
養育里親さんにお話を伺いました
お話を伺ったのは古川雅美さん。
4年前から「養育里親」として子どもたちと関わり始め、現在は「NPO法人全国児童福祉支援ネットワーク(Zidonet)」という団体で「ファミリーホームふるかわ」の管理者として子どもたちといっしょに生活をしています。
※ファミリーホームとは…
厚生労働省が定めた第二種社会福祉事業で「小規模住居型児童養育事業」といいます。
家族と一緒に暮らすことができない子どもたちを養育者の家庭に6人まで受け入れ、生活を共にします。
「ファミリーホームふるかわ」は、千葉市で4ヵ所目のファミリーホームになります。
私が養育里親になった大きな理由は2つあります。
1つ目は、2度の流産を経験したことです。
2度目の流産の時に、たった1人の母親になるのではなく、少しでも誰かを支える人になりなさいということなのかと考えました。
妊娠期間は短かったですが、その時に撮ったエコー写真を見て、今まで経験したことのない感情が芽生え、これが母性なのかもと思いました。
2つ目の理由は、乳児院で働いたことです。
仕事帰りに、母親に抱っこされて楽しそうに歩いている親子に目が留まりました。
今、目の前にいる子どもも乳児院で生活している子どもたちも何ら変わりはないのに、ただ虐待などを理由に家庭で生活できないために、乳児院で生活している子どもたちは背負わなくていいものを背負わされている。
施設の子どもたちの顔が浮かび、何だか泣けてきました。
この2つの出来事は、私が里親になるのに、背中を押してくれた大きなきっかけとなりました。
委託している兄妹は、我が家に来る前は児童養護施設で生活をしていました。
まずは私たち夫婦が施設に行き、子どもたちと一緒に時間を過ごし、慣れてきたら外出・短期の外泊・長期の外泊と段階を踏んでいきました。
この期間をマッチング期間といいますが、約半年かかりました。
施設と我が家は、片道1時間30分以上かかる離れた場所にあり、当時、大人の私たちでも大変だったものを、子どもたちは、もっと大変だったろうと思います。
身体的にもですが、精神的にも施設での生活と我が家での生活という二重の生活を強いられ、不安定な状態にさせられてしまい、心の拠り所はあったのかなと今でも思います。
子どもたちが日常使う物はもちろんのこと、保育園の入園手続きや小児科、公園や子育て支援センターなど、子どもたちが遊べるような場所も探しておきました。
また、ご近所への挨拶は、地域に根付くように子どもたちと一緒に行いました。
玩具や日用品は、一般の家庭がそうであるように、できる限り子どもたちと一緒に選ぼうと考え、最低限の準備としました。
お兄ちゃんが小学2年生の頃に「生活科」の授業の中で、自分の生い立ちを調べ、赤ちゃんの頃からの写真を集めライフストーリーを作ったり、自分の名前の由来を調べたりするものがありました。
一般家庭では何でもないことなのかもしれないですが、里親家庭では、その一つ一つの宿題の壁が高く、とても難しいもの。
事前に学校にも相談し、だいぶ配慮はしてもらえたのですが…。
名前の由来の宿題が出た時には、児童相談所に確認しましたが結局わからず、担任教師とも相談し、私たち夫婦がお兄ちゃんには、こんな風に育ってほしいという想いを発表することに。
その想いを手紙にし、お兄ちゃんに渡すと、読んでいるうちにボロボロと涙を流し始めたんです。
「小さい頃のことを思い出した」と言い、泣きながら宿題をやっていました。
本当の両親の顔も名前もわからない、小さい頃の記憶はあっても記録がないということは、自分の基礎というか根っこのようなものが、とても危うく脆い状態にあると思います。
わずか8歳の少年が、こんなにも心に大きな傷を負っているのかと改めて感じた出来事です。
子どもたちの成長を一番近くで見られることと、もう1つは、子どもたちから温かい言葉や時間をもらえることです。
お兄ちゃんから「ママから生まれたかったな」という言葉をもらったり、小学校のお友だちには自慢げに「僕にはママが2人いるんだ」と話していたこともあったそうです。
妹の方は、「ママ大好き!」「私、この家に来て幸せ」「家族がいっぱい増えてよかった」と、本当に素敵な言葉を私たちにくれます。
子どもたちとの生活の中で、確実に変わったことは、子どもたちが私たち大人の世界を広げてくれたことです。色々な里親さんとの出会い、地域の人たちやママ友、あまり連絡をとっていなかった親戚など、数え上げたらキリがありません。
子どもたちも私たち大人も、色々な人に支えられて毎日、生活しています。
できる人ができる時に、そっと手を伸ばす、そんな居心地の良い少しのおせっかいが、子どもたちの支援に繋がると思います。
NPO法人キーアセットの役割
NPO法人キーアセットは、大阪府、東京都、川崎市、福岡市、埼玉県、千葉市から事業を委託して活動しています。
受託内容は自治体によって異なりますが、主に養育里親制度に関心を持っていただくためのリクルート活動を行い、問い合わせから相談、面接、登録前研修~委託後に至るまでの包括的なサポートを行っています。
自治体と養育里親との連携の下、里親委託推進を図るだけでなく、周囲からの理解が足りずに孤立してしまいがちな里親のサポートにも注力しているそう。
さまざまな取り組みを通じて、子どもを中心に「里親さんの良き伴走者になりたい」と考えています。
・熱意をもって可能性を追求します
・子ども自身に希望を抱きます
・全ての人を大切にします
・挑戦は安全第一
・地域社会と共に
・リクルートとアセスメント
・理解を深めるトレーニング(ワークショップ)
・強みに基づいた関わり
・訪問支援
NPO法人キーアセット 千葉オフィス
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