NPO法人キーアセット千葉オフィスに聞く「里親制度」って何ですか?

2018年上半期(1~6月)、児童相談所が対応した児童虐待件数が過去最多となり、子どもたちを取り巻く状況に社会的な関心が高まっています。

 

虐待やネグレクトだけでなく、死別や親の薬物依存、病気、経済的事情などさまざまな事情から、自分の家で暮らすことのできない子どもたちの受け入れ先の一つとなるのが「養育里親」。

日本では昔から、養護が必要な子どもの受入れ先は児童養護施設や乳児院といった施設が中心でした。

しかし、2011年より政府は家庭的な環境での養育を重要視し、「里親委託ガイドライン」を作成するなど「里親制度」の強化・普及を進めています。

ただし、日本での委託率は全国平均で18.3%(平成28年度末現在)とまだまだなじみが薄いのが現状。

そこで、「里親制度」の周知や啓発、里親のリクルーティングなどを行うNPO法人キーアセット千葉オフィスの東日本エリアマネージャーの榑沼(くれぬま)あづささんとスタッフの栁沼(やぎぬま)彩子さんに里親の役割や必要性についてお話を伺いました。

 

右・榑沼あづささん

福祉の勉強のため渡米し、大学院に入学。卒業後は現地で里親支援の仕事に携わる。帰国後にNPO法人キーアセットに入社。東日本エリアマネージャーとして、現在は埼玉オフィスと千葉オフィスを行き来する忙しい日々を送る。

左・栁沼彩子さん

短大卒業後、保育士として乳児院に就職。そこでの経験から「里親制度の理解を広めたい」という思いが芽生え、NPO法人キーアセットに転職。

知っているようで知らない
「里親制度」と「特別養子縁組制度」の違い

さまざまな事情から、親元では暮らすことのできない子どもたちを家庭に迎え入れ、保護し、育てる…と聞くと、「養子」を思い浮かべる人も多いと思います。

ところが、実は「里親制度」と「特別養子縁組制度」はまったくの別モノなんです。

 

「特別養子縁組制度」とは…

原則6歳未満の子どもを対象とした制度で、実親との関係を絶ち養親の戸籍に保護対象の子どもが入ることで、戸籍上の家族として認められる制度。

「里親制度」とは…

さまざまな理由で親元を離れなければならない子どもを、一定期間または子どもが社会的に自立する年齢(18歳)まで家庭で「養育」する制度。

実親の元に帰るまでの期間となるので、養育期間は数週間~十数年とケースにより異なる。

 

簡単に言えば、戸籍上で「家族」となるのが「特別養子縁組」、一定期間だけ家庭で引き取り、育てるのが「里親制度」です。

実親と生活ができない子どもが千葉市にはおよそ170人いますが、「養育里親」として登録している家庭の数はおよそ60家庭。

まだまだ、里親は足りていない状況なのだそうです。

 

NPO法人キーアセット榑沼さん榑沼さん:親元で暮らせない子どもたちのほとんどは、乳児院や児童養護施設で暮らしています。

ですが、子どもたちにとって生まれた「地域」にある「家庭」で育つというのは、成長の上でとても大切なんですよ。

NPO法人キーアセット栁沼さん栁沼さん:施設は大勢の子どもに対して、少人数の教員(※編集部注:小学生であれば5.5人に対して教員1人の配置)が対応します。

自分がお休みの日でも子どもたちを連れて遊びに出掛けるなど、熱心な先生もたくさんいらっしゃいますが、それにも限界があります。

私は以前、乳児院で保育士として働いていましたが、その時に子どもたちは「いつでも側にいて、自分を一番に思ってくれる保護者」を心から求めていると強く感じました。

 

NPO法人キーアセット榑沼さん 榑沼さん:例えば、家庭だと昨日の残り物が今晩の夕食時に食卓に上がることってごく当たり前のことですよね?

ですが、施設ではそういうこともありません。

そんな小さなことをひとつ取っても、家庭と施設では環境が異なります。

子どもたちは常に、自分だけを見てくれて信頼できる「大人」とどんなときでも迎え入れてくれる「家庭」を欲しています。

自立した大人への成長過程として「愛情に満ちた家庭」は必要不可欠だし、それはどんな子どもにも与えられるべき

もちろん中には、「住み慣れた施設にいて大勢でワイワイ暮らすほうがいい」という子どももいるかもしれません。

「里親制度」はあくまで、子どもたちが本人にとって最善の環境で暮らすための選択肢の一つなんです。

 

里親になるには

―実際に「養育里親」をされているのは、どんな方が多いのでしょうか。

 

NPO法人キーアセット榑沼さん 榑沼さん: ひとくちに「里親」といっても、子育てがひと段落した夫婦のご家庭、子育て真っ最中のにぎやかなおうち、お子さんに恵まれなかったご夫婦、独身の方などそれぞれ年齢も環境も異なります。

「養育里親」になるのに特別な資格などは必要ありませんが、千葉市ではご結婚されている場合、夫婦それぞれ登録する必要があります。

 

NPO法人キーアセット栁沼さん 栁沼さん:「養育里親」に興味をお持ちの方は、私たちキーアセットに電話でお問い合わせいただければと思います。

まずは制度について詳しくご説明する場を設けさせていただきます。

その後何度かの面談や研修を経て、双方に納得した後に登録となります。

だいたい、問い合わせから登録まで半年ほどかかる場合が多いですね。

 

【里親登録の流れ】

(1)相談
里親に興味を持ったらまずはキーアセットに問い合わせを。
「養育里親」についてより詳しく知ることができる説明会も定期的に実施しています。

(2)面談
面談は2~3回。
初回は「里親制度」についての説明が中心。
2回目以降は、登録希望者がどんな親御さんの元でどのように育ったのか、またどんな里親になりたいか、不安に思っていること…などをヒアリングします。

(3)登録前研修(講義・実習)
講義では、キーアセットオリジナルのテキスト6冊を用いて、養護の子どもを預かるにあたり大事なことをしっかり学びます(4日間)。
実習は、乳児院または児童養護施設に出掛け、実際に子どもたちと触れ合います(2~3日間)。

(4)家庭訪問
ケースワーカーとキーアセットが登録希望者の自宅を訪問し、家庭環境を確認します。

(5)児童相談所長面接
キーアセットがオフィスを構える自治体の中では、千葉市は児童相談所の所長面接があります。

(6)社会福祉審議会
面接や研修を踏まえ、登録の認定が審議されます。

(7)登録
審議会から認定が下りると「養育里親」としての登録が完了します。

 

登録までのプロセスをキーアセットでは「お互いを知り、関係性を築く」ものだと考えているそう。

「私たちキーアセットは里親候補者の『強み』がどういうものかを知り、候補者は『キーアセットと一緒にやっていけるかな…』という点を登録までの間に見ていただければ」と榑沼さん。

加えてキーアセットでは、里親さん同士が交流できるサロンも定期的に開催。

登録後にサロンに参加し、実際に養育している人と話すことで委託前の不安を払拭できた!という声も多数寄せられています。

 

―「養育里親」になるうえで大切なことは何ですか?

 

NPO法人キーアセット榑沼さん榑沼さん:私たちが大切にしているのは、積極的に里親さんとコミュニケーションを取ることです。 

血のつながらない子どもを育てる上で、やはりさまざまな壁にぶつかることがあります。

小さなことでも誰かに相談することで解決の糸口が見つかったり、気持ちが軽くなったりするので、1人で抱え込まず、遠慮なく助けを求めてください!

 

あとは、「子どもにフォーカスできる」という点も重要。

子どもが今どんな状態でどんな気持ちでいるのか、目に見える行動だけでなく、子どもの心理状態も気にかけてあげてほしいです。

子育て全般に言えるのかもしれませんが、予測しないことがたくさん起こるので、「こうじゃなきゃいけない」とがんじがらめになるより、どちらかといえば楽観的に構えておく方がいいかもしれませんね。

 

NPO法人キーアセット栁沼さん 栁沼さん:養育する子どもには実親がいます。

そして、その親の元に子どもを帰すことが里親制度の目標の一つであるということもご理解いただきたいです。

また、実親の元に帰すタイミングは児童相談所の判断になるので、養育の期間は初めにお約束できないんです。

数年のつもりが、18歳まで育てた…ということもありますし、逆も然り。

ただ、中には、実親との親子関係を維持したまま養親と戸籍上で親子関係を結ぶ「普通養子縁組」を行ったご家庭もあります。

 

―子どもをはじめ、実親の気持ちや養親の家庭環境など、さまざまな要因によって事情も変わってくるんですね。

養護する子どもについて、年齢や性別を指定することはできますか?

 

NPO法人キーアセット栁沼さん 栁沼さん:面談などで要望をお聞きする機会はあるので可能ではあります。

ですが、委託家庭を決める際に最も重視するのは「その子どもに最適な環境か」という点。

例えば、「この子は健康状態に不安があって通院が必要だから自家用車が必須」だとか、「注目されるのが少し苦手だから、子どもが複数いる家庭がベスト」などですね。

正直なところ、里親さんの登録数もまだまだ足りていないので、緊急性が高いケースなどはこの限りではないのですが…。

 

―一緒に生活し始めて、うまくいかなかったというケースも中にはあるんですか?

 

NPO法人キーアセット榑沼さん榑沼さん:やってみないと分からない部分もあるので、どれだけ関係者や養育里親が準備をしたとしても、難しい状況は出てくるかもしれません。

ただ、委託が始まると、私たちも訪問支援などのフォローを精一杯させていただきます。

先ほどもお話ししたように、どんな些細なことでも気軽に相談していただくのが一番だと思います!

 

ここも気になる! ~費用について~

登録にあたり、もし子どもを養育することになった場合の費用が心配という方もいるのでは?

実は「養育里親」には子どもに必要な生活費や教育費に加え、「里親手当」が毎月支給されます。

加えて医療費もかかりません。

「里親手当」は国から支給され、金額は子ども1人目は月額86,000円、2人目はその半額。小学生以上は学用品費なども別途支給されます。

※ケースにより異なります。詳しくは各自治体にお問い合わせください。

 

養育里親さんにお話を伺いました

お話を伺ったのは古川雅美さん。

4年前から「養育里親」として子どもたちと関わり始め、現在は「NPO法人全国児童福祉支援ネットワーク(Zidonet)」という団体で「ファミリーホームふるかわ」の管理者として子どもたちといっしょに生活をしています。

 

※ファミリーホームとは…

厚生労働省が定めた第二種社会福祉事業で「小規模住居型児童養育事業」といいます。
家族と一緒に暮らすことができない子どもたちを養育者の家庭に6人まで受け入れ、生活を共にします。
「ファミリーホームふるかわ」は、千葉市で4ヵ所目のファミリーホームになります。

 

Q.「養育里親」になったきっかけは何ですか?

私が養育里親になった大きな理由は2つあります。

1つ目は、2度の流産を経験したことです。

2度目の流産の時に、たった1人の母親になるのではなく、少しでも誰かを支える人になりなさいということなのかと考えました。

妊娠期間は短かったですが、その時に撮ったエコー写真を見て、今まで経験したことのない感情が芽生え、これが母性なのかもと思いました。

2つ目の理由は、乳児院で働いたことです。

仕事帰りに、母親に抱っこされて楽しそうに歩いている親子に目が留まりました。

今、目の前にいる子どもも乳児院で生活している子どもたちも何ら変わりはないのに、ただ虐待などを理由に家庭で生活できないために、乳児院で生活している子どもたちは背負わなくていいものを背負わされている。

施設の子どもたちの顔が浮かび、何だか泣けてきました。

この2つの出来事は、私が里親になるのに、背中を押してくれた大きなきっかけとなりました。

 

Q.委託されるお子さんと一緒に暮らすまでのプロセスを教えてください。

委託している兄妹は、我が家に来る前は児童養護施設で生活をしていました。

まずは私たち夫婦が施設に行き、子どもたちと一緒に時間を過ごし、慣れてきたら外出・短期の外泊・長期の外泊と段階を踏んでいきました。

この期間をマッチング期間といいますが、約半年かかりました。

施設と我が家は、片道1時間30分以上かかる離れた場所にあり、当時、大人の私たちでも大変だったものを、子どもたちは、もっと大変だったろうと思います。

身体的にもですが、精神的にも施設での生活と我が家での生活という二重の生活を強いられ、不安定な状態にさせられてしまい、心の拠り所はあったのかなと今でも思います。

 

Q.委託が決まって準備したものはありますか?

子どもたちが日常使う物はもちろんのこと、保育園の入園手続きや小児科、公園や子育て支援センターなど、子どもたちが遊べるような場所も探しておきました。

また、ご近所への挨拶は、地域に根付くように子どもたちと一緒に行いました。

玩具や日用品は、一般の家庭がそうであるように、できる限り子どもたちと一緒に選ぼうと考え、最低限の準備としました。

 

Q.実際に暮らしてみて、大変だったことはありますか?

お兄ちゃんが小学2年生の頃に「生活科」の授業の中で、自分の生い立ちを調べ、赤ちゃんの頃からの写真を集めライフストーリーを作ったり、自分の名前の由来を調べたりするものがありました。

一般家庭では何でもないことなのかもしれないですが、里親家庭では、その一つ一つの宿題の壁が高く、とても難しいもの。

事前に学校にも相談し、だいぶ配慮はしてもらえたのですが…。

名前の由来の宿題が出た時には、児童相談所に確認しましたが結局わからず、担任教師とも相談し、私たち夫婦がお兄ちゃんには、こんな風に育ってほしいという想いを発表することに。

その想いを手紙にし、お兄ちゃんに渡すと、読んでいるうちにボロボロと涙を流し始めたんです。

「小さい頃のことを思い出した」と言い、泣きながら宿題をやっていました。

本当の両親の顔も名前もわからない、小さい頃の記憶はあっても記録がないということは、自分の基礎というか根っこのようなものが、とても危うく脆い状態にあると思います。

わずか8歳の少年が、こんなにも心に大きな傷を負っているのかと改めて感じた出来事です。

 

Q.里親になってよかった!と感じる瞬間は?

子どもたちの成長を一番近くで見られることと、もう1つは、子どもたちから温かい言葉や時間をもらえることです。

お兄ちゃんから「ママから生まれたかったな」という言葉をもらったり、小学校のお友だちには自慢げに「僕にはママが2人いるんだ」と話していたこともあったそうです。

妹の方は、「ママ大好き!」「私、この家に来て幸せ」「家族がいっぱい増えてよかった」と、本当に素敵な言葉を私たちにくれます。

子どもたちとの生活の中で、確実に変わったことは、子どもたちが私たち大人の世界を広げてくれたことです。色々な里親さんとの出会い、地域の人たちやママ友、あまり連絡をとっていなかった親戚など、数え上げたらキリがありません。

子どもたちも私たち大人も、色々な人に支えられて毎日、生活しています。

 

できる人ができる時に、そっと手を伸ばす、そんな居心地の良い少しのおせっかいが、子どもたちの支援に繋がると思います。

NPO法人キーアセットの役割

NPO法人キーアセットは、大阪、東京、川崎市、福岡市、埼玉、千葉市から事業を委託して活動、前述した委託決定後の家庭訪問や相談対応、里親同士がつながるきっかけとなるサロンなどを開催。

これらに加えて、養育里親制度に関心を持ち、問い合わせいただくためのリクルート活動、面談、登録前の研修も行っています。

自治体と「養育里親」の間に立ち、子どもたちの委託先を確保するだけでなく、周囲からの理解が足りずに孤立してしまいがちな里親のサポートにも重きを置いているそう。

さまざまな取り組みを通じて、「里親さんの伴走者になりたい」とお二人はお話してくれました。

 

キーアセットの5つのミッション

・熱意をもって可能性を追求します

・子ども自身に希望を抱きます

・全ての人を大切にします

・挑戦は安全第一

・地域社会と共に

 

キーアセットの取り組み

・リクルートとアセスメント

・理解を深めるトレーニング(ワークショップ)

・強みに基づいた関わり

・訪問支援

 

NPO法人キーアセット 千葉オフィス

場所/千葉市若葉区西都賀3-20-11

受付時間/9時~18時(※時間外対応可)

定休日/なし

駐車場/2台

アクセス/千葉都市モノレール・JR都賀駅から徒歩5分

電話番号/043-215-7802

 

この記事を書いた人

ちいき新聞web編集S

ちいき新聞web編集S

千葉市生まれ、千葉市在住のアラフォー。編集プロダクションなどを経て「ちいき新聞」編集部へ。甘いものとパンと漫画が大好き。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。

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