51歳、リストラで早期退職。

趣味の釣りで訪れた勝浦の朝市で、竹細工のバッタに魅せられ弟子入り。

「珍竹林おじさん」こと江口信男さんのドラマチックな人生を取材しました。

江口信男さん
バランストンボを手にする江口信男さん

公開 2020/09/01(最終更新 2023/01/31)

ちいき新聞ライター

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地域に密着してフリーペーパー「ちいき新聞」紙面の記事を取材・執筆しています。

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「珍竹林おじさん」と作品へのこだわり

ちんちくりん。一度聞いたら忘れられない。

由来を尋ねると「前へならえ」と言って腰に両手を当てました。

最前列が中学卒業までの江口さんの定位置。

面白い名前に反して作品は実にリアルです。

玄関前の作品
工房の玄関に飾られた作品たち

孟宗竹を筆頭に真竹、黒竹と素材はすべて竹です。

100年以上古民家のいろりでいぶされた高価なすす竹を使うこともあります。

バッタ
記念すべき第一作はバッタ
バッタ正面
正面から見たところ

竹の持ち味を生かすのが江口作品の特徴。

細い枝をコテで曲げて足に。チョウの羽には竹の皮を貼ります。彩色はしません。

だからきらきらしたカナブンやタマムシは作らないといいます。

また、基本的に目は付けない。見る人のイメージで作品を見てほしいからです。

歴代作品で最小はダンゴムシ、最大はオオカマキリ。

ダンゴムシ
ダンゴムシ
ダンゴムシ2
手のひらに載せたところ

オトシブミなる不思議な名前の虫も。

「ロマンチックな由来があるんですよ」。

この虫は葉に卵を産み、きれいに畳んで切り落とします。

それが昔の恋文の落文と似ていることから名付けられたといいます。

オトシブミ
ロマンチックな由来を持つオトシブミ

展示会では作品の販売も。

一番人気はトンボ形やじろべえのバランストンボ。

作業机に置かれたバランストンボ
作業机に置かれたバランストンボ
バランストンボ
竹の上に立たせてみた

前進あるのみのトンボは勝ち虫と呼ばれる縁起物。

2,000円弱の手頃な値段も人気の理由です。

ムシの文字にもこだわります。

虫ではなく蟲。

「竹の昆虫とあるのにクモがいるのは変だ」。以前そんな声が寄せられました。

節足類全般の意味で蟲の字を使います。

クモ
クモも含めて「蟲」と表現

芸術界の危機的状況と今後の活動

新型コロナウイルス感染症は芸術界も直撃しました。

例年は幕張メッセや東京ビッグサイトなどの展示会やワークショップに大忙し。

それがコロナで軒並み中止に。

7月にようやく今年最初の展示会が開催されました。

船橋のつくり手たち展
7月、船橋のつくり手たち展に出展

「夢は竹細工の仕事を長く続けられること」。

6年前に病気のため移植治療を受けましたが、今年再発。

今も点滴が欠かせません。

「医療は飛躍的に進歩した。6年前と違い、今は通院しながら自宅で創作できます」と前向きです。

「作品を展示して評価されるのはうれしいですね」。

来年2月に上野の森美術館で開催の「第26回日本の美術 全国選抜作家展」への出展が決定しました。

今後の予定などについては、工房 珍竹林おじさんのfacebookでご確認ください。(取材・執筆/ヒロ)