誰もがその人らしく安心して人生を送れる社会を目指して 医師 太田守武さん

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気を知っているだろうか。10万人に1人が罹患するといわれ、感覚や思考力などはそのままに、身体を動かすための筋肉が徐々に痩せていくという難病だ。医師でありながら、そのALSに罹患した太田守武さんを取材した。

ALS太田守武さん

太田さんにALSの診断が下ったのは2014年。

医師ということもあり、今後のことを考えては絶望の日々だったといいます。「確定診断の後、最悪の結末のことばかりを考えていました。だから妻や子ども、仲間のことも遠ざけていた時期があります。それでも乗り越えられたのは私を見捨てずに声を掛け続けてくれた家族と仲間のおかげ。生きる希望の光は、決して自分ではともせないことを心から実感しました」と太田さん。この時の経験が現在の活動につながっているそうです。 

太田さんは、八千代市民フォーラムなどでの講演の他、東日本大震災や熊本地震の被災地に仲間たちと赴き、災地支援をしています。

「2011年から毎年行っています。被災地に暮らす人々は、家が壊れ、仮設住宅に暮らし、やがて復興住宅へと移りますが、属すコミュニティーが何度も変わります。人付き合いは労力が必要で、心が疲弊してしまう場合もあり、ただでさえ被災して精神的につらいのに、環境や人間関係でストレスを感じる人も。だからこそ現地で交流会などを開いて、気持ちを吐き出してもらうことを大事にしています。実際、震災から8年がたってやっと自分の心の内を話すことができた被災者もいました。継続して支援することの大切さを感じています」と話します。

ALS太田守武さん無料相談
毎年訪れる南三陸町の伊里前団地で行った無料医科相談の様子(2019年8月)

被災地に行くためには飛行機に乗ることもあれば、大型バスなどで向かうこともあるそうです。その背景には、重い障害を持っていても、遠出が可能であることを証明したいという気持ちも。

現在、太田さんは「Wアイクロストーク」という、独自で開発した、道具を一切使わないコミュニケーション方法を採用しています。ALSという病気は、最終的には体の中で動くところは目だけになります。よって、目によるコミュニケーションが採用されるのですが、「被災地で、コミュニケーションに使われていた文字盤やパソコンが流されたなどで無くなってしまった時にコミュニケーションを取れなくなったことを経験し、道具も何も使わない方法が必要だと思い、編み出しました」と話します。

 

Wアイクロストークでお話している様子をご覧ください。目の動きで、たくさんのことを伝えてくれます。取材時も、この目の動きで冗談を交えてこちらを笑わせてくれ、ユーモアたっぷりの太田さんです

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公開 2020/08/06

編集部 橋本いくら

編集部 橋本いくら

編集部所属 編集/記者。愛媛県出身。千葉の食べ物で一番好きなのはさんが焼き。完全に文化系のサブカル脳で生きてきましたが『リングフィットアドベンチャー』によって最近は筋トレに少しだけハマり中。でもツイッターが一番性に合います。★Twitter★@chiiki_ikura

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重度障害者は寝たきりという概念を変えたい

太田さんは、NPO法人Smile and Hopeで訪問介護事業を立ち上げ、重度障害者が安心して暮らせる地域づくりを目指しています。

「ALSになってよかったですよ。特に患者さんは、我慢を強いられていることがたくさんあると気付かされました」。

ALS患者は情動静止困難という怒りの気持ちが抑えられないという症状があり、それを理解されていないとヘルパーや家族を不本意に傷付けてしまうこともあります。実際、とても穏やかな太田さんでも、そういう時期があったそうで家族もサポートメンバーも、本人もとても苦しんだのだとか。ひどい時にはヘルパーが辞めてしまったりすることもあったそうです。でもそれは「本人の性格」ではなく「病気」が理由と分かると光が見え、本人も周囲も楽になったのだという経験から、当事者として、訪問介護を利用してくれている利用者さんやご家族の気持ちも痛いほど理解ができると太田さんは話します。

「ほかの人にはこんな苦労をさせたくない。理解することで乗り越えることができるはずです」。

そんな経験がある太田さんが訪問介護事業をやるからこそ、できるだけみんなが辛い思いをせずに済むような正確な情報を届けられます。「当事者はもちろん、家族のサポートもすることがみんなの平和につながります」。

 

被災地支援の他、映画館にも行くという太田さん。「重度障害者は寝たきりで天井を見て暮らすものだという概念を変えたい」と話し、今後は海外旅行にも挑戦してみたいと力強く語りました。

ALS太田守武さんALS協会での講演の様子(2017年8月)。何があろうとどんな状態になろうと、希望の光を見つめ続け、苦難の渦中にいる人たちへメッセージを送り続ける

 

■太田守武さんのブログはこちら

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