親に終活を切り出せない悩める子世代へ~親子で一緒に「ダブル終活」のすすめ
ズバッと聞けたら楽だけど無理!
…そんな人も多いのではないでしょうか。
とはいえ疑問や不安はスッキリ解消して、前向きな気持ちで未来に進みたいものです。
そこで、デリケートな終活を、どのように進めればいいのか専門家に聞きました。
公開 2020/08/05
編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
記事一覧へ家のこと、お金のこと。分からない状態が不安を生む
今回、親子で進める終活について教えてくれたのは…
▲株式会社 家族葬のファミーユ 千葉支社終活カウンセラー 服部恵津子さん
実家の母は、元気で健康そのものと言った感じなんですが、高齢者の一人暮らしは何かと心配です。
今後のことについて、一度じっくり話を聞きたいという気持ちはあるのですが…何と言って切り出せばいいか。
気分を害したりしないかしら、とか、いろいろ考えてしまって…。
親御さんの側が「子どもに面倒かけたくない」と遠慮して、あえて終活について相談しないケースも多いようです。
ですが、お子さま側は「相談されても迷惑とは思わない」という人が約9割という調査結果もあり、そこにギャップがあるのですね。
そうなんです、むしろ積極的に話したいのですが…。
特に新型コロナウイルス感染症の流行で、「いつ何が起きるか分からない」という恐怖を感じるようになりました。
もしものとき、母の知り合いの誰に連絡したらいいのかも分からないし、とにかく分からないことだらけ。
考えれば考えるほど不安になってきます。
葬儀のことや財産の状況など、いろいろ考えて知っておかないといけないですよね。
子世代を対象に、高齢者となった親のことで「取り組んでおかないと困ること」を尋ねた調査によると、「持ち物の整理」「財産の整理」「葬儀」「介護」「相続対策」などを心配する方が多いという結果になっています。
その他にもお墓のこと、延命治療はどうしたいのか、ペットはどうするのかなど、考え始めるといろいろな確認事項が出てきますね。
▲聞かなきゃと思いつつ、つい先延ばしに…
子世代の一番の悩みは親の持ち物の整理
母は「もったいない」が口癖で、割と何でも取っておくタイプなので、家の片づけは難易度が高そうです。
戦中戦後の日本が貧しい時代を生きてきた世代の人が、簡単に物が捨てられないということは十分理解できます。
物を大切にすることは美徳でもありますから、その気持ちも尊重しながら進めたいですね。
「片付けたら良いことがあった」と思えるような体験を少しずつ積みかさねて、捨てることに対するハードルを下げていく作戦はいかがでしょう。
Aさんはリサイクルショップやフリマアプリはお使いになりますか?
一応、使ったことはあります。
高齢者の方の中には、そういうものを利用したいと思っていても具体的にどうしていいか分からなかったり、何となくめんどくさそうと腰が重くなって使わないでいる人もいるので、若い方がサポートしてあげるといいかもしれませんね。
物が片付いて、しかも換金されたとなれば、家の片づけに前向きな気持ちを持つようになる可能性はあります。
なるほど。
また、30年以内に大きな地震が起こる可能性が高いといったことも言われています。
防災の観点からも、家の中が整理整頓されている方が安全ですから、それを理由に説得してみるのもいいと思いますよ。
そういえば実家のたんすの上に段ボール箱が積んであったかも!
怖い怖い…。
それから、持ち物の整理は生前に行うことをお勧めします。
なぜなら、いったん持ち主が亡くなってしまうと、それは単なる物ではなく「遺品」になるからです。
確かに「遺品」になってしまうと、故人の思い出と結び付いたりして、心情的にもなかなか処分しづらくなるかもしれませんね。
▲「持ち物」が「遺品」になる前に…
エンディングノートを書いてもらうには?
預貯金がどのぐらいあるのか、保険金は…など、知っておきたいと思うものの、なかなかこちらからは聞きづらいものです。
姉とのきょうだい仲は特に悪くないのですが、後々もめたりするのは嫌なので、その辺はきちんとしておきたいのですが。
そうですね。
財産でもめるのは1000万円以下の場合が一番多いと言われているんです。
資産家だけの問題ではないんですね。
そういった財産目録的なものがあると安心なのですが…。
もし銀行口座の情報や暗証番号など、大事な情報がケータイに全部入れられていたとしたら…。
ロックされて解除できなかったらお手上げです。
やはり何か紙に書き出しておいてもらいたい。
エンディングノートを書いてもらえるとありがたいのですが、これも切り出しづらいですね。
自分の死のことは考えたくないという人は多いですから、「終活」という言葉や、それに結び付くエンディングノートを避けたいという気持ちも理解できます。
ですがおっしゃるように、親の意思は書き残してもらわないと、子世代としては困りますよね。
そうです。
たとえ健康だとしても、人間誰しも突然事故に遭う可能性だってありますよね。
それで亡くなったときに、誰を葬儀に呼ぶの?どんなお葬式がしたかったの?などなど、何も分からないので途方に暮れることが目に見えてますから。
そうですね。
それで言うと、突然事故に遭う可能性があるのは、Aさんの年代でも同じですよね。
そこでお勧めしたいのが親子で一緒にそれぞれがエンディングノートを作る、ダブル終活です。
自分の終活!? 考えてもみませんでした。
▲書ける項目だけでも、一緒に書いてみましょう
終活を親世代に丸投げして口だけ出すと、気分を害してやる気をそがれるケースが多いのです。
でも「一緒にやりましょう」と声を掛けると案外乗ってきてくれることもありますよ。
Aさん自身は「終活はまだ早い」という感覚があるかもしれませんが、エンディングノートに現在のご自分の状況を書き留めておく作業は、自分のためにもなりますし。
「エンディングノート」という言葉が重いと感じるなら、市販の普通のノートに、必要な情報を少しずつ書き加えていくだけでもいいでしょう。
書き留めておくとよい事柄
・自分のこと(生年月日、血液型、本籍地、経歴、好きなもの他)
・家族や親戚のこと(家系図、家族や親族へのメッセージ、住所録)
・友人や知人のこと(友人や知人へのメッセージ、住所録)
・病気や介護のこと(余命告知、延命治療、臓器提供、介護、看取り、財産管理などの希望)
・財産のこと(不動産、預貯金、株式、生命保険・損害保険・共済、その他の資産・権利、借入金・ローン)
・遺言のこと(遺言書の有無、所在)
・お葬式のこと(喪主、宗教・宗派、規模・場所・戒名・費用・演出・遺影などの希望)
・お墓のこと(墓や仏壇の有無、形態・場所・費用などについての希望、参列者へのメッセージ)
参考/家族葬のファミーユ作成「未来ノート」
注意しておきたいのは、エンディングノートには法的効力がないことです。
本人の意思や希望を伝えるという点では役に立ちますが、遺言の代わりにはならないので、相続などでトラブルになりそうなことは遺言として残すべきです。
その際、書き方や手続きの不備によっては無効になることがあるので、不安な場合は専門家に相談して作成するのがおすすめです。
介護~早めに考えておきたいついのすみか
葬儀やお墓、相続が死後に関わってくるのに対し、介護は生きている間に直面する課題。
一番早めに手を付けておきたいテーマかもしれません。
母はずっと住み慣れた家で過ごしたいと思っているようです。
今後のことを考えてバリアフリーにしたらと言ったこともあるのですが、あまり乗り気ではないようでした。
まだまだ健康に自信のある方にバリアフリーを勧めると、「年寄り扱いするな」と憤慨されることもあるようです。
そこは言い方を変えて、ずっと住み続けるなら、生活しやすいようにリフォームしましょう、と言ってみたらどうでしょう。
また、自宅で介護保険を使いながら生活していくつもりなら、ある日突然介護が必要になったとき、どこに相談したらいいのか、行政の支援体制なども確認しておくといいですね。
施設への入居を考えている場合は、本人が元気で動けるうちに、納得して選べるように、一緒に見学しておくといいと思います。
▲ゆとりを持って判断できるうちに動いてみましょう
終活を和やかに無理なく進めるには
母に「一緒に終活」を提案するとして、どういうふうに持ち掛けたら前向きに考えてくれるでしょうか。
良いアイデアがあったら教えてください。
Aさんのお母様は活動的な方なんですよね。
お出掛けするのが好きなタイプなら、終活関係のイベントに誘ってみてはどうでしょう?
講演会とか相談会ですか?
う~ん、どうだろう。
もっと気楽に参加できるイベントもたくさんありますよ。
例えば、いざお亡くなりになったとき、遺影をどうするかで慌てることが多いので、生前に撮影しておくと安心ですよね。
そのニーズに応えて、プロのカメラマンに無料で撮影してもらえるイベントなんかはおすすめです。
葬儀社では結構行われている人気のイベントですよ。
それは終活関係なく興味あります。
私も撮ってほしい(笑)。
▲「最高の一枚」を撮っておけば安心?
実際の祭壇をお飾りした見学相談会や人形供養など、参加しやすいものから誘ってみてはいかがでしょうか。
一度でもこういったイベントに参加した人は、次回以降割と気軽に足が向く傾向があるんです。
イベント参加後はランチ、というのを恒例にしておけば、それが楽しみになってまた次につながりやすくなりますよ。
確かにランチとセットでお出掛けにするのはアリかも。
イベントに出掛けた時に気が向けば、終活について気になることをついでに相談するぐらいのスタンスで。
終活のことを考えたくないという人は、分からないことが多くて漠然とした不安があるからではないでしょうか。
分からないことが一つでも減って、いろんな課題がクリアになれば安心につながります。
スッキリした気持ちで、これからの人生を明るく過ごせるきっかけになるかもしれません。
今度トライしてみます。
ちなみに、終活に前向きになれる魔法の言葉なんてないでしょうか?
難しいですね…(笑)。
デリケートなテーマですし、それぞれのお気持ちがあるので、無理は禁物です。
どうしても不安なら、「友達の親御さんが急に亡くなって、何も聞かされてなかったからすごく困ってたみたい。だから教えてほしいのだけど…」と、友達の話として不安を訴えてみるとか。
もっとも、子どもが親へストレートに思いをぶつけ、真剣に話すことで終活が進む例も拝見します。
葬儀イベントの参加者の方を見ていると、娘さん(なぜか息子さんは少ない)が必死に親を説得して連れてきた、というケースが非常に多いんですね。
心から思う真剣さが伝わっているのだと思います。
特に今年、新型コロナウイルス感染症の流行によって、皆さんの意識が変わったのを感じます。
遠い存在だと思っていた死が現実味を帯びた自分事として感じられるようになり、「いつ何が起こるか分からない」との思いから終活を意識する人が増えました。
それはイベントなどへの参加者が増えていることからも窺えます。
確かに、急にコロナにかかって入院し、そのまま死に目にも会えないつらい別れがニュースで報道されていました。
ああなってしまったら、もう何もかも分からずじまいです。
そうなる前に終活を、と思ったのは親世代も同じかもしれません。
親が終活に取り組む決心をしてくれたら、「これで安心。助かるわ」「ありがとう」「一緒に手伝うよ」などの言葉をぜひ掛けてください。
双方が満足して共感できるのが良い終活と言えるでしょう。
そうですね。
私もこれをきっかけにエンディングノートを書いてみます!
最後にもう一つ。
書面に残すことも大事ですが、親子の思い出作りをぜひしてほしいです。
旅行へ行く。
おいしいものを食べる。
温泉などでゆったりとリラックスしているときなら、デリケートな話題も和やかに話せるかもしれません。
思い出は、形こそないですが、親亡き後もずっと子どもの心に残るかけがえのない財産です。
幸せな時間を少しでも多く積み重ねて、思い出という財産を増やしていくのは理想の終活といえるのではないでしょうか。
▲思い出が一番の財産!
わかりました。
終活より先に、まずは旅行に誘ってみます!