なぜ美味しい? 味良し、香り良しな千葉の海苔 

昭和40年代には全国一の生産量を誇った千葉の海苔。

現在ではさまざまな要因から生産量が落ちていますが、味の良さは健在。そんな千葉の海苔について、千葉県漁業協同組合連合会(JF千葉漁連)の山本和典さんに教えてもらいました。

 

千葉の海苔

公開 2020/08/03

編集部 モティ

編集部 モティ

編集/ライター。千葉市生まれ、千葉市在住。甘い物とパンと漫画が大好き。土偶を愛でてます。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。★Twitter★ https://twitter.com/NHeRl8rwLT1PRLB

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地域により異なる栽培方法

江戸時代に全国で始まったといわれる海苔の養殖。

その中でも、千葉の海苔は、香りが良く、味もおいしいと県内外から高い評価を受けてきました。

これは、海苔にとって必要な栄養を運ぶ河川の流入など、東京湾が海苔の生育に適していたためだと考えられています。

 

県内で海苔の養殖を行っているのは、船橋市と市川市、木更津市、富津市の計12漁協。特に養殖が盛んな富津市においては、千葉県内の出荷の8割を占めています。

また、木更津の牛込・金田は稀少価値の高い、青のりの混ざった「青まぜ海苔」が採れることで最近注目を浴びているエリア。

 

実は養殖の方法には、「支柱柵式」と「浮き流し式」の2種類があります。

「支柱柵式」とは、干潟に柱を立てて海苔を育てる方法のこと。

遠浅の海の支柱で育つ海苔は、干潮時には日光を浴び、満潮時には海水に浸って養分を蓄えます。

「自然の海苔は岩場に育ち、潮の満ち引きによって栄養を蓄えます。そういった意味でも『支柱柵式』は、自然の姿に近い養殖方法といえますね」とJF千葉漁連の山本さん。

 

船橋で行われる支柱柵式

▲船橋市で行われる支柱柵式の固定張り(写真提供:船橋市)

 

ただし、支柱柵式は干潟でしか行えず、漁場が限られてしまいます。

そこで編み出されたのが、網に浮きを付けて海面に浮かべ、海苔を育てる「浮き流し式」と呼ばれる方法。

 

浮き流し式の摘採

▲「浮き流し式」の摘採のようす

 

この方法であれば沖でも海苔の養殖ができるため、生産量の確保にもつながるのです。

昭和40年代は「支柱柵式」が中心でしたが、現在では全国的にも「浮き流し式」を採用する地域が増加。ちなみに県内では、船橋や木更津では、「支柱柵式」と「浮き流し式」が半々、富津では「浮き流し式」が主流となっています。

 

専門家による海苔の格付け

丹精込めて育てた海苔の摘採(収穫)は、11~4月の寒い時期。

生産者が摘採した海苔は、専用の機械で乾燥した後、漁業協同組合に運ばれてきます。

ここで行われるのが、専門の検査員による格付け。

 

「千葉の海苔は、格付けが細分化されているのが特徴です。今年は新富津漁協で、180種も格付けされた海苔が入札にかかったこともありました」と山本さん。

1等から6等までの等級に加え、色や穴あき、ツヤや重さなどさまざまな観点からその海苔の等級が決められます。

ちなみに海苔は黒くてツヤのあるものが美味しいと言われています。

また、大きな破れは減点にはなりますが、やわらかい若い葉ほど隙間があるので、穴があるからダメというものでもないそうです。うーん、奥深い!

 

その複雑な検査はすべて目視で行われるというから驚きですよね。

海苔の格付けを表すスタンプ

▲格付けは、検査場に置かれたこちらのスタンプで表します。

 

1人の検査員が検査結果を伝えると、スタンプ係である検査員がその結果を箱に押していきます。

数字は1等、2等…などの等級、色は「黒」や「A」、穴あきは「〇」や「D」、軽すぎれば「軽」、大変良い海苔であれば「特」「上」など、それぞれの意味に合わせたスタンプを選んで押します。

 

格付けが記された段ボール

▲「黒」などがスタンプされた段ボール

 

この作業、慣れていないとパニックになりそう…。

 

この検査結果を基に、せりで価格が決められて問屋に買われていきます。

海苔のせりは年に12~15回行われるとのこと。ほぼ毎月ですね!

 

せりの場所は、取材に伺った千葉県漁業協同組合連合会のり共販事業所の建物内にありました。

せりが行われる会場

せり当日は、こちらにずらりと全国の海苔問屋が並んで座り、手元にある機械で希望価格を入力。一番高値を付けた人がその海苔を購入できる…という仕組みです。

 

厳しい格付けの中、1等とされた海苔はどれだけ美味しいのか。実際に試食させていただきました。

1等と4等の海苔の比較

※取材当日の試食風景は撮り忘れてしまったので自宅で再現いたしました

 

左が4等、右が1等のものです。

見るからにツヤツヤしている1等の品は、風味の濃さが違うといいますか、それだけでもうま味がしっかりと感じられます。

4等の海苔ももちろん、十二分においしいのですが、1等の方は海苔の概念が変わる味わいなんです。

 

これだけでごはんのおかずになる。むしろそのまま食べたい!!

 

ちなみに、一般的なスーパーに出回るのは4等以下の海苔だそうで、1等クラスは高級寿司店などに卸されることが多いそう。

海苔問屋ならば取り扱っていることもあるそうなので、気になる人はお近くのお店に行ってみてください!

 

千葉海苔問屋協同組合 

 

環境の変化で生産量にも影響

そんな、味自慢の千葉の海苔ですが、近年では温暖化などの影響や、海苔を餌とするクロダイの増加が原因で生産量が激減。

加えて、昭和60年代には約1400件いた海苔の生産者は、平成30年には約140件と10分の1近くに減少してしまいました。

 

そんな中、千葉の海苔を盛り上げていこうと頑張る若い生産者たちがいます。

「例えば、海苔の天敵であるクロダイを駆除しようとおいしく食べる方法を考えたり、品質を良くするための研究をしたり…みんな、やれることからやっていこうと前向きでこちらも励まされます」と山本さん。

 

次世代を担う若者たちがいるのは心強いですね!

 

小学校で海苔の食育を行う山本さん

また、山本さんら組合のスタッフは小学校で海苔に関する食育授業なども行うなど、千葉の海苔を積極的にPR。

稀少になりつつある千葉の海苔を、ぜひみんなで応援しましょう!

 

【おまけ】海苔の保存方法

しけやすい海苔は、開封後は密閉容器などに入れて、冷蔵庫で保存するのがおすすめ!