戦争の貴重な資料をアーカイブするコミュニティスペース永遠の図書室~The Eternal Library~
3月23日、館山駅に程近い場所にプレオープンした「永遠の図書室」。古い建物をリノベーションして作られたスペースに、約3000冊以上もの戦争に関する書籍や手記が並んでいます。
素敵でモダンな建物の中に、想像をはるかに超える世界が広がっていました。
公開 2020/06/03(最終更新 2023/03/08)
編集部 橋本いくら
編集部所属 編集/記者。愛媛県出身。千葉の食べ物で一番好きなのはさんが焼き。完全に文化系のサブカル脳で生きてきましたが『リングフィットアドベンチャー』によって最近は筋トレに少しだけハマり中。でもツイッターが一番性に合います。★Twitter★@chiiki_ikura
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古い建物の中で思ってもみない出会いがあった
この建物は築59年、鉄筋コンクリート造で、かつて1階は「飯塚薬局」という薬局、2階3階は住居として使われていました。
生活が営まれていたことを感じさせるこの建物の中に入るのも、なんだかワクワクします。
館山の町の入り口に位置しており、かつてはランドマーク的な存在だったことがうかがえます。
この建物が売りに出された際に名乗りを挙げたのが、館山周辺で古い建物をリノベーションし、シェアハウスや宿泊施設に再生している漆原秀さんでした。
「古い建物が好きでした。この建物はアールの付いた外観がかわいいなと前から気になっていたんです」と漆原さん
漆原さんは、かつて東京のIT企業でバリバリに働いていたそうですが、ストレスにより疲労が溜まり、「家族と一緒に自分の生き方をやり直したい」と考え、館山に移住、現在は3つの建物をリノベーションして運営しており、
「旅行者にゲストハウスやシェアハウスに滞在してもらい、“この街に暮らしてみようかな”と思ってもらえるといいなと思います」
と話します。
そんな漆原さん、以前からこの建物を見て「おもしろいことができそうだ」と感じていたそうで、もともとは、
「1階はクラフト作家などクリエイターの人たちの小商いスペースに、2階3階は若い人たちがコミュニティと共に暮らせるシェアハウスにしたい……」
とヴィジョンを思い描いていたようですが、1歩中に入ってみると、思ってもみない出会いがあったのです。
前所有者の生活の風景がまだまだ残る2階と3階。かつての子ども部屋にはボブ・ディランのポスターがあるなど、時代を感じます
そこにあったのは自問自答の研究の記録
今でも家具などがそのまま置いてあり、薬局を営んでいた前所有者の家族が昨日まで住んでいたような気配がそこここに残ります。
漆原さんがここで見つけたのが、飯塚浩さん(故人)が残した、膨大な量の戦争に関する史料でした。
その数は3000冊以上、写真集からマンガまで、一貫して「戦争」がテーマの書物が山のようにあったのです。
それに加え、飯塚さん自身の戦争体験を克明に記した手記も、
「ボリュームとして、文庫本にしたら300冊くらいにはなるのでは」
というほどの量が残されていました。
「飯塚さんは当時エリート中のエリートである陸軍士官学校を卒業し、台湾や東ティモールを経てインドネシアで大尉として終戦を迎えました。東アジアを植民地から解放しようと尽力していたことも記されていますが、最終的には、「自分が青春をささげて信じていた戦争というものは一体なんだったのか」を追求するために一生かけて研究をしていたようです」
と手記に目を通した漆原さんは話し、「学問的な研究というよりは、自問自答の研究」と、飯塚さんの研究を表現します。
気が遠くなるほどの数がある戦争に関する本
手記は絵も緻密に描かれ、文字の美しさ、写真のきれいなスクラップにも飯塚さんの丁寧な性格がうかがえる
もともと戦争に深い思い入れはなかったという漆原さんですが、
「古い建物をリノベーションしていく中で、そこに生きた人について掘り下げることが必要だなと思って、戦争も忘れてはいけないと思ったんです」
と、考えが変化していきました。
「民間でこんなに残っているところはない」先輩のアドバイスでアーカイブすることに
そんな時に、大学の先輩であり、独自に戦争の研究を続けている藤本真佐さんに相談したところ、すぐに館山まで来てくれたといいます。
闘病中の藤本さんは、
「いつまで生きられるかという中で、自分を探し出してくれた飯塚さんからの導きがあった」
と感じ、そこから7日間泊まり込み、本をジャンルに分けアーカイブし、公開することにしたそうです。
「強い意志を持って次世代に残そうとした」飯塚さんの思いは、こうして、受け継がれる機会に恵まれたのです。
漆原さんは、
「一部の軍事マニアのための空間ではなく、平和を感じる空間にしたいと思いました。今の平和に行きつくまでには、かつて戦争があったよね、とさりげなく意識ができる場所にしたい」
と考え、内装を作り上げていきました。もともとの薬品陳列棚などを利用するなど活かせるものは活かし、地域の人たちが気軽に集えるコミュニティスペースとしての機能も持つように、と考えたといいます。
戦争遺跡も多いこの地で平和が感じられるように
東京湾の入り口でもある館山は、かつて海軍航空隊があり、終戦直後には本土で唯一GHQが直接統治した場所です。多くの軍関係の遺跡や、防空壕も随所に残ります。
「そんな館山で、今後はいろんな家庭に眠っている、軍事関連の史料や遺品を集めてアーカイブをしていきたいです。そしてこの場所も長時間安定的に、貸出ができる場所にできれば」
と語る漆原さん。現在はこの場所での閲覧限定ですが、いずれは貸出を考えているそうです。
今後の展開にもワクワクする「永遠の図書室」、ぜひ一度訪れてみては。